「坊っちゃま、おはようございます」

「おはよう」

「少しでも眠られましたか?あれから朝方まで仕事されてましたよね?」

「んー、問題ないから」


なんとか、あのオヤジを黙らせられる方法が見つかった。


「飯田こそ寝たのか?クマ出来てんぞ」

「気のせいです」


あと数時間でまとめないと。


「頼んだ通りよろしくな」

「かしこまりました」



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コンコンコンッ


「坊っちゃま、失礼いたします」


11時過ぎ。
父さんの秘書が俺の仕事部屋にやってきた。



「会長がお呼びでございます。ご一緒に金澤様の所へ向かわれるとのことです」


「あー、わかった。すぐ行く」



部屋を出ると飯田がやってきた。


「牧に伝えております」

「サンキュ」



玄関を出ると、もう父さんはいなかった。


父さんの別の付き人がやってきた。

「会長は金澤様とお話があるようで、先に向かわれました」


ふーん


「わかった」

何企んでんだ?


俺も急いで車に乗り込み、飯田と一緒に金澤の家へ向かった。




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ぼーっとしているわけにはいかない。

牧さんが来るまで、暁斗くんの言い付けを守り部屋からは出ず、掃除に励んだ。


ただ、早く顔洗いたいしトイレも行きたくなってきた…。



コンコンコンッ

「伊織さん、よろしいですか?」


牧さん!!

「はい!」



ガチャッ

「大変お待たせいたしました。旦那様が外出されましたので、どうぞお部屋を出てください」


暁おと出かけたんだ。


「ご迷惑をおかけしてすみません」

「とんでもございません。伊織さん、お腹空いてますよね?お着替えなど済まされましたらお食事なさってください」


「いえ、私は大丈夫です。暁おと…いや、暁斗くんのお父さんがいらっしゃらない内にお掃除とかしちゃいます」


今がチャンスだよね。
ちゃんとお仕事しなきゃ。


「そのことなのですが、坊っちゃまより本日から数日の間、ご家族様のいらっしゃるマンションで過ごしてほしいとの言付けを賜っております」


「そうなんですか?」

「旦那様がこちらにいる間だけ、見つからないようにするためだと仰っていました」


だよね。。

このまま私がいるのは危険過ぎる。


「わかりました。お仕事を放り出すような形になってしまい申し訳ありません」


私のせいなのに、さらに私が迷惑をかけちゃってる。



「そんな!!どうして伊織さんが謝るんですか!?頭を上げてください!」


優しい牧さん。


「坊っちゃまも飯田さんも私たち使用人も、皆さん伊織さんが大好きなんですよ。ですから、これからもご一緒したいので今は旦那様から隠れちゃいましょう」


こんな嬉しい有り難いことを言ってくれる。



あ、泣きそう。
最近涙腺弱いな、私。


「ありがとう…ございます」


「さぁ!旦那様が戻って来られる前に準備してマンションへ向かいましょう!」


「はい!」


そうと決まれば急いで準備だ。


そういえば…

「暁斗くんはいないんですか?」

「はい。旦那様とご一緒に外出されました」


そっか。

ひと言、お礼を言いたかったな。



私は洗顔、歯磨きを終わらせ、急いで着替えた。


何日かお母さんたちの所に泊まる準備しなきゃね。



あれ…私……

前まではお母さんたちと暮らすことを1番に考えていたのに

なんで今はここで暮らすことが基準になってるの…?


荷物を詰めながら自問自答。



「伊織さん、ご準備いかがですか?」

「はっはい!出来ました」


時間ないのに私ってば何考えてんだか。
早くしなきゃ。


牧さんと一緒に玄関に向かう。




バタバターー…!!

「あの!牧さん!伊織さん!」

他のお手伝いさんがやってきた。
どうやら、かなり慌てている様子。



「なに?そんな走ってどうしたの!?」

牧さんも驚いている。



「はぁはぁ…玄関にはまだ行かずお待ちください…!実はー…!」




「きみが【阿部伊織】さんかな?」



後ろから男の人の声がした。



ものすごく嫌な予感がする。



当たらなければいいんだけど、きっと当たるんだろうな。




「やはりここにいたんだね」


あぁ、なんか色々とバレてそうだな。



「大変申し訳ございません!!これにはわけがー…!」

牧さんが先に振り向き、その声の主に頭を下げてくれている。


「牧さん!」


私は牧さんの言葉を止めて、勇気を出して振り向いた。



すごく嫌な緊張感。
なんだかちょっと怖い。




振り向くと、そこには見たことある人がいた。



「はじめまして、伊織さん?」


「…はじめまして。暁斗くんの…お父さん」