リオが、レオナールの待つパビリオンに着いたのは、全八戦の内、残り二戦となった小休憩の時だった。
「アルテナ公爵、ご夫人はパビリオンにご到着の頃だと思いますよ。」
「妻が、お茶会にお誘い頂けたこと、大変光栄にまた、恐縮に存じます。」
「こちらが勝手に呼びつけたのだから、お気になさらず。ユリアーナ様との邂逅は私にとっても、何にも代えがたい喜びでした。ご夫人に楽しい一時のお礼を改めてお伝え下さい。」
「アルテナ公爵、長い間引き留めて悪かったね。私の暇つぶしに付き合わせて申し訳のない事をした。」
「とんでもないことにございます。私の方こそ、国王陛下の貴重なお時間をご一緒させて頂き幸せに存じます。両陛下の温かいお言葉に、感謝の言葉もございません。」
ヴィレムは、 ‘御前を失礼させて頂きます。’ と断わって、パビリオンを後にした。
∴∵
ヴィレムが、元の席へ戻ると、ユリアーナが心配そうな顔で待っていた。お互い、陛下に呼ばれどんな話しをしたのか報告し合ったが、ユリアーナの方は、四人での楽しいお茶会だったと言うに留めておいた。お互い、国王夫妻の怒りを買っていた訳ではなかったことに、胸をなで下ろす。
そうこうしている間に、小休憩は終り、第七戦の対戦が発表される。
「近衛騎士団 第一団隊 第四中隊 第一小隊 隊長 ヴィクトワール・ファロ」
立派な扉から堂々とした姿で現れたのは、髪そのものが発光しているかのような艶めいたゴールドブロンドを高い位置で一つに結んだ髪の長い女性だった。
涼しい目元が、騎士としての凜々しさを強調させている。しかし、表情は硬く何かを決意したかのようだった。
「旦那様、お名前から想像していましたが、女性が演習を行なうのですか?」
「あぁ。ユリアは離れていたから見ていなかったね。第三戦と第四戦は、女性同士の演習だったんだ。どちらの戦いも、男性に引けを取らない見事な戦いだった。」
司会者は、少し言い淀んでいる雰囲気をだす。それを察知した観客が少しざわめいた。
「…対戦相手は、ダンドリュー女公爵エリザベート殿下。」
女性兵士の戦いを見慣れた観客も、王女殿下の登場にはさすがにどよめいた。
エリザベートは、コートに書かれている一本の赤い線の所に立ち止まった。
この線は、一歩中へ入ればそこは戦場であり、身分の上も下もない事を表したものだ。この中に入れば、エリザベートは王女でなくただの戦士である。
エリザベートは、意を決してその線を超え、コートの中央部分まで進んだ。
「殿下がお持ちの剣は、真剣に見えますけれど、相手の女性騎士は今までと同様魔剣に見えます。」
その問いには、解説員のヴィクトルが答える。
「今回の演習は、国外の皆さまに私どもが作る魔剣の性能を見て頂くために催したものでございます。ですので、魔剣対魔剣で戦っておりましたが、本来特伐隊と騎士団が合同で行なう演習は、魔剣対魔術剣で戦うことになっております。でございますので、エリザベート殿下はご自身の魔術を使って戦う魔術剣での参戦になっております。」
「魔術剣と魔剣の違いは何なのでしょうか?」
ユリアーナは、ヴィクトルの方に向いて、問いかけた。
「魔剣とは、魔道具の一種でございまして、魔力のある者が魔術を付与した剣でございます。それにより魔力がない者でも魔術が使えるようになって、魔獣の討伐が行えるようになっております。魔術剣は、剣はただの剣でございまして、戦士が自らの魔力で魔術を駆使し戦います。」
「魔術剣は、相手の攻撃を避けながら、さらに自分は攻撃し、魔術も発動しなければならずかなり難しいものだと聞く。」
「はい。魔術を発動するには、詠唱をしなくてはなりません。それが難しいのです。しかも、対戦相手の使用するのが、王子殿下がお作りになった魔剣でございますので、町場で売られているような魔剣とは段違いの威力でございます。それに対処しながらでございますので、より難易度が高くなっております。」
「そのような危険な対戦を王女殿下がなさるのですか?」
ヴィクトルは、笑顔を作って頷いた。
「しかしながら、エリザベート殿下は、お母上の王妃陛下より学ばれた方法で魔術を発動なさいますので、女性初の中隊長になると期待されるヴィクトワールでもそう簡単な対戦とはならないでしょう。」
∴∵
「義母上も、エリザベートの対戦相手にファロ伯爵家のご令嬢を選ぶとは…。」
プリズマーティッシュの王太子マルゲリットの夫であるアントワーヌは苦笑する。
「アントワーヌ、前からずっと言っているでしょう?私たち姉弟の中で一番エリザベートが母上に似ていると。あの子は、一見一歩引いていて、自己主張も少なく大人しそうに見えるのだけど、自分が何かこうってものを決めてしまうと何が何でも押し通そうとするの。見方を変えると、自分が興味あること以外はどうでも良いのよ。だから、一歩引いた態度に見えるのね。ただの無関心なのだけど。」
コートでは、とうとうエリザベートとヴィクトワールの対戦が始まった。火の魔剣で戦うヴィクトワールに対し、エリザベートは氷の魔術で応戦するようだ。
出だしから互いに激しくぶつかり合う姿に、観客は声援を送るどころではなくただ息を呑む。
「ならば、それほどに心惹かれるものがあったってことだね。」
「そうね。あれほど結婚はしないと言っていたあの子が結婚したいと言ったのだから、それほどなのでしょうけれど…母上も父上も反対しているわ。私、個人としてなら、あの子の気持を優先してあげたいけれど。王太子として考えると私も賛成はできないわね。」
ヴィクトワールの強烈な炎の勢いによって、エリザベートはコートの端まで転がりながら飛ばされている。
「本当は、エリザベートは母上と戦うと言っていたのよ。」
「はぁ!?」
「それは、流石に父上が止めたわ。」
「そうだよ。陛下に何かあったら…。」
「あら、違うわよ。母上が本気を出したらエリザベートが抗う術などないもの。だから、ヴィクトワールにお鉢が回ってしまったの。相手は私でも良かったのだけど…」
「何言ってる、ダメに決まっているだろう?妊娠初期なのに。」
妊娠中ではなければ、きっとマルゲリットは本当に演習に出場していただろうと思うと、アントワーヌは全力で止めてしまう。
「しかし、ヴィクトワール嬢も災難だね。急に対戦が決まったうえに、強情母娘の争いに巻き込まれてしまって。」
「えぇ。本当よ。申訳ない気持でいっぱい。対戦が決まってすぐにヴィクトワールが、母上から‘万が一エリザベートを殺してしまったとしても、この演習での事だったら罪には問わないと約束するから、本気で戦いなさい’と言われたらしくて、真っ青になってどうしたらよいかと相談に来たわ。」
「マルゲリットは何と答えたの?」
「謝るしかないでしょう。でも、妹の性格を考えると、自分の限度いっぱいの力で向ってくるだろうから、あなたもそのつもりで戦ってと伝えたわ。二人とも大きな怪我をしなければ良いけれど。」
マルゲリットは、深くため息を吐いた。
「そのために、ルイやジャンが救護所で治療をしているのだろう?最悪な事にはならないよ。」
∴∵
「また、派手な対戦を組んだものだな。リオ王妃も。」
「殿下は、この対戦はレオナール王ではなく王妃のリオ様が考えられたものだと思われるのですか?」
「レオナールではないであろうな。この対戦をしなければいけない理由が何かあったにせよ、レオナールならば、別の形で問題を解決していただろう。」
ウルバーノは少しだけ笑った。
「しかし、やはりあの王妃の血を受け継ぐ王女だ。全ての魔術を無詠唱で行なっている。これでは相手の騎士はいつ魔術による攻撃が仕掛けられてくるか分からない。それに、よく見ると氷だけではなく風や土などの魔術も使っている。繊細さもあり、熟練度も高い。相手もなかなかの女騎士のようだし、面白い戦いだな。」
「アルテナ公爵、ご夫人はパビリオンにご到着の頃だと思いますよ。」
「妻が、お茶会にお誘い頂けたこと、大変光栄にまた、恐縮に存じます。」
「こちらが勝手に呼びつけたのだから、お気になさらず。ユリアーナ様との邂逅は私にとっても、何にも代えがたい喜びでした。ご夫人に楽しい一時のお礼を改めてお伝え下さい。」
「アルテナ公爵、長い間引き留めて悪かったね。私の暇つぶしに付き合わせて申し訳のない事をした。」
「とんでもないことにございます。私の方こそ、国王陛下の貴重なお時間をご一緒させて頂き幸せに存じます。両陛下の温かいお言葉に、感謝の言葉もございません。」
ヴィレムは、 ‘御前を失礼させて頂きます。’ と断わって、パビリオンを後にした。
∴∵
ヴィレムが、元の席へ戻ると、ユリアーナが心配そうな顔で待っていた。お互い、陛下に呼ばれどんな話しをしたのか報告し合ったが、ユリアーナの方は、四人での楽しいお茶会だったと言うに留めておいた。お互い、国王夫妻の怒りを買っていた訳ではなかったことに、胸をなで下ろす。
そうこうしている間に、小休憩は終り、第七戦の対戦が発表される。
「近衛騎士団 第一団隊 第四中隊 第一小隊 隊長 ヴィクトワール・ファロ」
立派な扉から堂々とした姿で現れたのは、髪そのものが発光しているかのような艶めいたゴールドブロンドを高い位置で一つに結んだ髪の長い女性だった。
涼しい目元が、騎士としての凜々しさを強調させている。しかし、表情は硬く何かを決意したかのようだった。
「旦那様、お名前から想像していましたが、女性が演習を行なうのですか?」
「あぁ。ユリアは離れていたから見ていなかったね。第三戦と第四戦は、女性同士の演習だったんだ。どちらの戦いも、男性に引けを取らない見事な戦いだった。」
司会者は、少し言い淀んでいる雰囲気をだす。それを察知した観客が少しざわめいた。
「…対戦相手は、ダンドリュー女公爵エリザベート殿下。」
女性兵士の戦いを見慣れた観客も、王女殿下の登場にはさすがにどよめいた。
エリザベートは、コートに書かれている一本の赤い線の所に立ち止まった。
この線は、一歩中へ入ればそこは戦場であり、身分の上も下もない事を表したものだ。この中に入れば、エリザベートは王女でなくただの戦士である。
エリザベートは、意を決してその線を超え、コートの中央部分まで進んだ。
「殿下がお持ちの剣は、真剣に見えますけれど、相手の女性騎士は今までと同様魔剣に見えます。」
その問いには、解説員のヴィクトルが答える。
「今回の演習は、国外の皆さまに私どもが作る魔剣の性能を見て頂くために催したものでございます。ですので、魔剣対魔剣で戦っておりましたが、本来特伐隊と騎士団が合同で行なう演習は、魔剣対魔術剣で戦うことになっております。でございますので、エリザベート殿下はご自身の魔術を使って戦う魔術剣での参戦になっております。」
「魔術剣と魔剣の違いは何なのでしょうか?」
ユリアーナは、ヴィクトルの方に向いて、問いかけた。
「魔剣とは、魔道具の一種でございまして、魔力のある者が魔術を付与した剣でございます。それにより魔力がない者でも魔術が使えるようになって、魔獣の討伐が行えるようになっております。魔術剣は、剣はただの剣でございまして、戦士が自らの魔力で魔術を駆使し戦います。」
「魔術剣は、相手の攻撃を避けながら、さらに自分は攻撃し、魔術も発動しなければならずかなり難しいものだと聞く。」
「はい。魔術を発動するには、詠唱をしなくてはなりません。それが難しいのです。しかも、対戦相手の使用するのが、王子殿下がお作りになった魔剣でございますので、町場で売られているような魔剣とは段違いの威力でございます。それに対処しながらでございますので、より難易度が高くなっております。」
「そのような危険な対戦を王女殿下がなさるのですか?」
ヴィクトルは、笑顔を作って頷いた。
「しかしながら、エリザベート殿下は、お母上の王妃陛下より学ばれた方法で魔術を発動なさいますので、女性初の中隊長になると期待されるヴィクトワールでもそう簡単な対戦とはならないでしょう。」
∴∵
「義母上も、エリザベートの対戦相手にファロ伯爵家のご令嬢を選ぶとは…。」
プリズマーティッシュの王太子マルゲリットの夫であるアントワーヌは苦笑する。
「アントワーヌ、前からずっと言っているでしょう?私たち姉弟の中で一番エリザベートが母上に似ていると。あの子は、一見一歩引いていて、自己主張も少なく大人しそうに見えるのだけど、自分が何かこうってものを決めてしまうと何が何でも押し通そうとするの。見方を変えると、自分が興味あること以外はどうでも良いのよ。だから、一歩引いた態度に見えるのね。ただの無関心なのだけど。」
コートでは、とうとうエリザベートとヴィクトワールの対戦が始まった。火の魔剣で戦うヴィクトワールに対し、エリザベートは氷の魔術で応戦するようだ。
出だしから互いに激しくぶつかり合う姿に、観客は声援を送るどころではなくただ息を呑む。
「ならば、それほどに心惹かれるものがあったってことだね。」
「そうね。あれほど結婚はしないと言っていたあの子が結婚したいと言ったのだから、それほどなのでしょうけれど…母上も父上も反対しているわ。私、個人としてなら、あの子の気持を優先してあげたいけれど。王太子として考えると私も賛成はできないわね。」
ヴィクトワールの強烈な炎の勢いによって、エリザベートはコートの端まで転がりながら飛ばされている。
「本当は、エリザベートは母上と戦うと言っていたのよ。」
「はぁ!?」
「それは、流石に父上が止めたわ。」
「そうだよ。陛下に何かあったら…。」
「あら、違うわよ。母上が本気を出したらエリザベートが抗う術などないもの。だから、ヴィクトワールにお鉢が回ってしまったの。相手は私でも良かったのだけど…」
「何言ってる、ダメに決まっているだろう?妊娠初期なのに。」
妊娠中ではなければ、きっとマルゲリットは本当に演習に出場していただろうと思うと、アントワーヌは全力で止めてしまう。
「しかし、ヴィクトワール嬢も災難だね。急に対戦が決まったうえに、強情母娘の争いに巻き込まれてしまって。」
「えぇ。本当よ。申訳ない気持でいっぱい。対戦が決まってすぐにヴィクトワールが、母上から‘万が一エリザベートを殺してしまったとしても、この演習での事だったら罪には問わないと約束するから、本気で戦いなさい’と言われたらしくて、真っ青になってどうしたらよいかと相談に来たわ。」
「マルゲリットは何と答えたの?」
「謝るしかないでしょう。でも、妹の性格を考えると、自分の限度いっぱいの力で向ってくるだろうから、あなたもそのつもりで戦ってと伝えたわ。二人とも大きな怪我をしなければ良いけれど。」
マルゲリットは、深くため息を吐いた。
「そのために、ルイやジャンが救護所で治療をしているのだろう?最悪な事にはならないよ。」
∴∵
「また、派手な対戦を組んだものだな。リオ王妃も。」
「殿下は、この対戦はレオナール王ではなく王妃のリオ様が考えられたものだと思われるのですか?」
「レオナールではないであろうな。この対戦をしなければいけない理由が何かあったにせよ、レオナールならば、別の形で問題を解決していただろう。」
ウルバーノは少しだけ笑った。
「しかし、やはりあの王妃の血を受け継ぐ王女だ。全ての魔術を無詠唱で行なっている。これでは相手の騎士はいつ魔術による攻撃が仕掛けられてくるか分からない。それに、よく見ると氷だけではなく風や土などの魔術も使っている。繊細さもあり、熟練度も高い。相手もなかなかの女騎士のようだし、面白い戦いだな。」


