私の名前は、コンスタンティン・エイクマンです。エパナスターシ王国の伯爵位を賜っている家の嫡子として生まれ、内務長官をしている父の後を継ぐために生きてきました。
幼なじみとの婚約式を間近に控えた日、王太子殿下の命で魔獣討伐の特別編成部隊に召集され、プリズマーティッシュとの国境付近にある小さな町に派遣されました。魔獣の姿は見えず、数日間陣をはりその場に留まっていました。
特別編成の部隊には、私が幼少期から仲良くしている高位貴族の子息たちもいました。そんな中、その子息たちに誘われ、三人で陣の外を巡回していました。その時、グォーグォーという奇妙な泣き声が聞こえたと思ったところ次の瞬間には記憶がなくなり、その後はお二人の知るとおりです。
顔を伏せたまま聞いていたエディットは、ゆっくりと顔を上げた。その瞳がコンスタンティンの瞳とバチッと合った。
「今、エパナスターシ王国の王太子殿下も式典出席のために来てるわね。みんなが帰るのに合わせてあなたもエパナスターシ王国へ帰るの?」
「私の幼なじみには、王太子の息子である王子殿下もいらっしゃる。その殿下が、式典で私を見かけ、話しを聞きたいと仰せなのだそうだ。それで、今夜これから殿下とお会いする事になった。ただ、今のこの家族に自分のことを伏せたままコンスタンティンとして殿下とお話しさせて頂くわけにはいかない。きちんとエディットやユーグさんに身の上を話してからではないと、と思ったから。」
コンスタンティンは、目の前に座る二人をにこやかな顔で見つめる。
「もし、この国が許して下さるなら、私はここで、エヴァリストとして今の生活を続けたいと思っているんだ。エパナスターシ王国のことは、良い様に計らっていただけるよう殿下にお願い申し上げるつもりだ。幼い頃からの付き合いだから、無体なことは仰らないだろう。」
エディットは、突然立ち上がって、寝室の方へ行ってしまった。コンスタンティンとユーグはそれを黙って見ていた。
「色々と突然の事で戸惑っているのだろう。それに、このままではいけないと思いながらも生活していたのだろうから、君が残ると言ってくれたことで、安心して気が抜けたのかもしれない。」
ユーグは、立ち上がり温めていた羊のミルクを自分とコンスタンティン用に注いだ。
「エパナスターシ王国では、君の・・いや、コンスタンティン様の立場はもうないのですか?」
「え?」
「もしかして、私のことを心配して下さっているのでは?」
ユーグは、ミルク入りのマグカップをコンスタンティンの前へ置いた。
「あちらには、ご両親がいるのでしょう?」
「はい。」
「魔獣討伐で、嫡子が行方不明になるなど、ご両親の心労はいかばかりだっただろう。コンスタンティン様がこちらで生活をしたいと仰って下さる気持は大変嬉しいです。ですが、どちらにしても一度、エパナスターシ王国へはお帰り下さい。あちらに帰って、それでもなお、この生活に戻りたいとお思いになったのでしたら、ご両親とお話しをして、こちらへ戻って来て下さい。」
コンスタンティンは、黙ったままマグカップを握った。
「王子殿下と交流が待てるほど、伯爵家の中でも由緒のあるお家柄なのでしょう?ならば、やはり、お国へ帰った方が良い。ただ・・」
ユーグは突然、言い淀んだ。
「何でしょうか?」
「エディットの事も、連れて行ってはくれないでしょうか?平民の娘が貴族の正妻になどなれないことは、十分理解しています。しかし、再びこのままここで捨て置かれては、この先あの子は人を信じられなくなってしまう。ジョセフやダニエルも父に捨てられたら…。」
「はい。わかっています。そろそろ時間なので、行きます。」
コンスタンティンは、静かに立ち上がると、寝室のドアの前へで立ち止まった。
「エディット、これから王宮へ行ってくる。今後の事を話し合ってくるから待っていて欲しい。」
返事は聞こえなかったが、そのまま王宮へ向った。
∴∵
しばらくして、ユーグは寝室のドアを叩いた。中からゆっくりとエディットが出てきた。
「そこへ座りなさい。」
その言葉に、エディットは従った。
「コンスタンティン様が帰って来たら、一緒にエパナスターシ王国へ行きたいとお願いしなさい。平民のエディットでは、伯爵家の嫡男である彼の正妻にはなれないだろうが、彼の誠実な性格を思えば、エディットのことを無下には扱わないだろう。ジョセフとダニエルも庶子ではあるが平民の子として生きるより、良い教育が受けられるはずだ。話しぶりからしても、彼の家は名門のようだから。」
ユーグは、席を立ち、自分の部屋へ行くと何かを持って戻った。
「私が今出せるのはこれだけだが、旅するための身の回りの物を整えなさい。」
そう言って差し出したのは、布袋に入った金貨や銀貨だった。
「私のことは忘れて、幸せになるんだよ。」
「おじいさん…。」
「今まで、いらない苦労を沢山させたね。すまなかった。子供たちは私が迎えに行くから、エディットは旅の準備をしていなさい。夕ご飯も買ってくるから。」
エディットは小さく頷いた。
幼なじみとの婚約式を間近に控えた日、王太子殿下の命で魔獣討伐の特別編成部隊に召集され、プリズマーティッシュとの国境付近にある小さな町に派遣されました。魔獣の姿は見えず、数日間陣をはりその場に留まっていました。
特別編成の部隊には、私が幼少期から仲良くしている高位貴族の子息たちもいました。そんな中、その子息たちに誘われ、三人で陣の外を巡回していました。その時、グォーグォーという奇妙な泣き声が聞こえたと思ったところ次の瞬間には記憶がなくなり、その後はお二人の知るとおりです。
顔を伏せたまま聞いていたエディットは、ゆっくりと顔を上げた。その瞳がコンスタンティンの瞳とバチッと合った。
「今、エパナスターシ王国の王太子殿下も式典出席のために来てるわね。みんなが帰るのに合わせてあなたもエパナスターシ王国へ帰るの?」
「私の幼なじみには、王太子の息子である王子殿下もいらっしゃる。その殿下が、式典で私を見かけ、話しを聞きたいと仰せなのだそうだ。それで、今夜これから殿下とお会いする事になった。ただ、今のこの家族に自分のことを伏せたままコンスタンティンとして殿下とお話しさせて頂くわけにはいかない。きちんとエディットやユーグさんに身の上を話してからではないと、と思ったから。」
コンスタンティンは、目の前に座る二人をにこやかな顔で見つめる。
「もし、この国が許して下さるなら、私はここで、エヴァリストとして今の生活を続けたいと思っているんだ。エパナスターシ王国のことは、良い様に計らっていただけるよう殿下にお願い申し上げるつもりだ。幼い頃からの付き合いだから、無体なことは仰らないだろう。」
エディットは、突然立ち上がって、寝室の方へ行ってしまった。コンスタンティンとユーグはそれを黙って見ていた。
「色々と突然の事で戸惑っているのだろう。それに、このままではいけないと思いながらも生活していたのだろうから、君が残ると言ってくれたことで、安心して気が抜けたのかもしれない。」
ユーグは、立ち上がり温めていた羊のミルクを自分とコンスタンティン用に注いだ。
「エパナスターシ王国では、君の・・いや、コンスタンティン様の立場はもうないのですか?」
「え?」
「もしかして、私のことを心配して下さっているのでは?」
ユーグは、ミルク入りのマグカップをコンスタンティンの前へ置いた。
「あちらには、ご両親がいるのでしょう?」
「はい。」
「魔獣討伐で、嫡子が行方不明になるなど、ご両親の心労はいかばかりだっただろう。コンスタンティン様がこちらで生活をしたいと仰って下さる気持は大変嬉しいです。ですが、どちらにしても一度、エパナスターシ王国へはお帰り下さい。あちらに帰って、それでもなお、この生活に戻りたいとお思いになったのでしたら、ご両親とお話しをして、こちらへ戻って来て下さい。」
コンスタンティンは、黙ったままマグカップを握った。
「王子殿下と交流が待てるほど、伯爵家の中でも由緒のあるお家柄なのでしょう?ならば、やはり、お国へ帰った方が良い。ただ・・」
ユーグは突然、言い淀んだ。
「何でしょうか?」
「エディットの事も、連れて行ってはくれないでしょうか?平民の娘が貴族の正妻になどなれないことは、十分理解しています。しかし、再びこのままここで捨て置かれては、この先あの子は人を信じられなくなってしまう。ジョセフやダニエルも父に捨てられたら…。」
「はい。わかっています。そろそろ時間なので、行きます。」
コンスタンティンは、静かに立ち上がると、寝室のドアの前へで立ち止まった。
「エディット、これから王宮へ行ってくる。今後の事を話し合ってくるから待っていて欲しい。」
返事は聞こえなかったが、そのまま王宮へ向った。
∴∵
しばらくして、ユーグは寝室のドアを叩いた。中からゆっくりとエディットが出てきた。
「そこへ座りなさい。」
その言葉に、エディットは従った。
「コンスタンティン様が帰って来たら、一緒にエパナスターシ王国へ行きたいとお願いしなさい。平民のエディットでは、伯爵家の嫡男である彼の正妻にはなれないだろうが、彼の誠実な性格を思えば、エディットのことを無下には扱わないだろう。ジョセフとダニエルも庶子ではあるが平民の子として生きるより、良い教育が受けられるはずだ。話しぶりからしても、彼の家は名門のようだから。」
ユーグは、席を立ち、自分の部屋へ行くと何かを持って戻った。
「私が今出せるのはこれだけだが、旅するための身の回りの物を整えなさい。」
そう言って差し出したのは、布袋に入った金貨や銀貨だった。
「私のことは忘れて、幸せになるんだよ。」
「おじいさん…。」
「今まで、いらない苦労を沢山させたね。すまなかった。子供たちは私が迎えに行くから、エディットは旅の準備をしていなさい。夕ご飯も買ってくるから。」
エディットは小さく頷いた。


