前室の大広間で一時を過ごし、舞踏会の時間になった。まずはゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンの貴族達がホールに移動し、隣国の国賓達はひと組ずつ呼ばれてホールに入ってきた。
最初はエシタリシテソージャのウルバーノ王太子夫妻。続いてヴィットーリオ王子とマリーナが呼ばれ、随行員の夫婦が三組呼ばれて、エパナスターシの順番になった。ヴィットーリオ王子の息子のアルナルドは成人を迎えていないので、夜会へは出席しなかった。
「エパナスターシ王国 アルテナ公爵ヴィレム殿下、アルテナ公爵妃ユリアーナ殿下。」
名前が呼ばれると、一歩前に出て二人で礼の姿勢を取り、ホールの中央部分に歩き出した。続いて、クリストッフェルが呼ばれ、エパナスターシの人間は全てが呼ばれた。
「ゲウェーニッチ王国 王太子フェデリーコ殿下、王太子妃テレーザ殿下。」
ユリアーナは、ホールに姿を見せたテレーザを見た。ダークブロンドの髪は緩くカールしていて腰の辺りまで伸ばしている。グレイッシュピンクのケープ付きドレスには白いアイリスのモチーフが刺繍されている。レオナール国王の御落胤と聞けば、その通り、濃い髪の色や目元の雰囲気が似ている。肌色が透き通るように白いのは、彼女の母親であるアリーチェ妃がアルドマルジザットの母とゲウェーニッチの父を持っていたと考えると、母方の血筋によるものなのかもしれない。
「ゲウェーニッチ王国 アリギエリ伯爵ベルナルド様、アリギエリ伯爵夫人フランチェスカ様。ゲウェーニッチ王国 サンティ伯爵ロドルフォ様、サンティ伯爵夫人マティルデ様。」
最後の招待客が呼ばれ、入場すると国王夫妻の登場になった。ホールにいる人々は皆、最敬礼で二人を迎える。
曲線を描いたなだらかな絨毯敷きの階段をレオナール国王とリオ王妃がゆっくりと下りてくる。国王は、ドレス姿の王妃を気遣うようにゆっくりとした歩調を保つ。王妃は謁見の時のような深みのある濃い赤色の地に銀糸の刺繍が印象的なドレスだった。大粒のルビーと細やかな銀細工のティアラが短く切られた漆黒の髪によく映えている。
国王夫妻は階段を残り数段のところで止まった。
「面をお上げ下さい。今宵、エシタリシテソージャ王国、エパナスターシ王国、ゲウェーニッチ王国の皆様をお迎えして、宴席をともにすることができますことは、私と王妃にとりまして喜びに満たされる思いです。このたび、三カ国の皆様が遠路はるばる我が国をご訪問下されたことは、今までの永い歴史の上で特筆すべきことであり、私レオナールはここに心から歓迎の意を表します。また、我が国の王妃は三十有余年前、エシタリシテソージャ王国を訪ねましたが、その際エシタリシテソージャ王室から寄せられたご厚遇と、国民から受けた歓迎に対し、この国の王として改めてお礼を申し上げます。我が国との関係が常に友好であったとは申せません。しかし、その経験があるからこそ、ここにいる我らの時代には二度とあのような惨いことが起きてはならないと決意を新たにいたしました。皆様、今宵は存分にお楽しみ下さい。」
レオナール王の挨拶の後、リオ王妃だけが階段を下りきると、ウルバーノ王太子が近寄り彼女の手を取った。彼がホールの中央部までリオ王妃をエスコートしたところでワルツの音楽が流れる。
二人が、美々しく踊る姿をユリアーナは眺めていた。
∴∵
ウルバーノ王太子とリオ王妃が一曲踊り終え、新しい曲がかかると、人々は踊り始めた。ユリアーナもヴィレムと踊り始めた。
「こんなに沢山の方が出席する舞踏会は、本当に久し振りで少し緊張してしまいます。」
「この沢山の女性の中でもユリアが一番に優雅で洗練されているよ。」
ユリアーナが、辺りに視線を移すと、ヴィレムの異母弟のクリストッフェルが、同年代の女性と踊っていた。彼は今夜同伴者無しで参加しているはずだった。
「ヴィム、クリストッフェル殿下はどなたと踊っているのでしょう?」
「プリズマーティッシュの貴族にでも誘われたのだろう。」
「殿下がどなたかと踊っているところを見たことがなかったので。国が変り、少しは楽しめていらっしゃるのかしら?良うございましたね。」
ユリアーナが見るところ、クリストッフェルは自国で、王太子妃アンドレーアの目があるために、王子と言っても常に自身の気配を消して過ごしているように見えていた。踊りの誘いがあったとしても断わってしまうことが多いようにも見えた。友好国ではないにしても、国が変ったという環境の変化は、悪いことだけではないようだった。
∴∵
アンドレーアは、他国の貴族の幾人かと踊り、再びマウリッツと踊っている。
この国への来訪に合わせ仕立てたドレスは、エパナスターシの社交界では避けられている純粋に黒いドレスだった。トップはエパナスターシの慣例に則って手の甲まで隠れる長袖の総レース。スカート部分は光沢のある生地が幾重にも重なったデザインになっている。
「あの、レオナールと言う王は、この大陸を自らが治めている気にでもなっているのでしょうか。近隣国が集まっているこの場であのような挨拶をするなどと。」
「アンドレーア。私は女性がそのように言う事は好きじゃないな。」
「あなたの母上も政治に口を挟むでしょう?」
「母はね、産まれてから父と結婚すまでの間ずっとマッティスの領地で育ったんだ。王都では分からない様々な事を領地で学んだと言っていた。君は、生まれてから今までずっと王都を離れて住んでいたことがないだろう?そもそもの見えているものが少し違うんじゃないかな。」
マウリッツは、アンドレーアを鋭い言葉で傷付けたり、怒鳴ったりなどはしない。しかし、いつもアンドレーアはマウリッツの言葉に傷付けられる。
何を話しても受け入れてもらえず、相手にされない。愛されなかったとしてもせめて、共に戦う同志になりたいと思うことはそんなにも贅沢なことなのだろうか。
ため息を吐いたアンドレーアに、マウリッツは笑っていることが一番だよと悪気もない様子で言った。
最初はエシタリシテソージャのウルバーノ王太子夫妻。続いてヴィットーリオ王子とマリーナが呼ばれ、随行員の夫婦が三組呼ばれて、エパナスターシの順番になった。ヴィットーリオ王子の息子のアルナルドは成人を迎えていないので、夜会へは出席しなかった。
「エパナスターシ王国 アルテナ公爵ヴィレム殿下、アルテナ公爵妃ユリアーナ殿下。」
名前が呼ばれると、一歩前に出て二人で礼の姿勢を取り、ホールの中央部分に歩き出した。続いて、クリストッフェルが呼ばれ、エパナスターシの人間は全てが呼ばれた。
「ゲウェーニッチ王国 王太子フェデリーコ殿下、王太子妃テレーザ殿下。」
ユリアーナは、ホールに姿を見せたテレーザを見た。ダークブロンドの髪は緩くカールしていて腰の辺りまで伸ばしている。グレイッシュピンクのケープ付きドレスには白いアイリスのモチーフが刺繍されている。レオナール国王の御落胤と聞けば、その通り、濃い髪の色や目元の雰囲気が似ている。肌色が透き通るように白いのは、彼女の母親であるアリーチェ妃がアルドマルジザットの母とゲウェーニッチの父を持っていたと考えると、母方の血筋によるものなのかもしれない。
「ゲウェーニッチ王国 アリギエリ伯爵ベルナルド様、アリギエリ伯爵夫人フランチェスカ様。ゲウェーニッチ王国 サンティ伯爵ロドルフォ様、サンティ伯爵夫人マティルデ様。」
最後の招待客が呼ばれ、入場すると国王夫妻の登場になった。ホールにいる人々は皆、最敬礼で二人を迎える。
曲線を描いたなだらかな絨毯敷きの階段をレオナール国王とリオ王妃がゆっくりと下りてくる。国王は、ドレス姿の王妃を気遣うようにゆっくりとした歩調を保つ。王妃は謁見の時のような深みのある濃い赤色の地に銀糸の刺繍が印象的なドレスだった。大粒のルビーと細やかな銀細工のティアラが短く切られた漆黒の髪によく映えている。
国王夫妻は階段を残り数段のところで止まった。
「面をお上げ下さい。今宵、エシタリシテソージャ王国、エパナスターシ王国、ゲウェーニッチ王国の皆様をお迎えして、宴席をともにすることができますことは、私と王妃にとりまして喜びに満たされる思いです。このたび、三カ国の皆様が遠路はるばる我が国をご訪問下されたことは、今までの永い歴史の上で特筆すべきことであり、私レオナールはここに心から歓迎の意を表します。また、我が国の王妃は三十有余年前、エシタリシテソージャ王国を訪ねましたが、その際エシタリシテソージャ王室から寄せられたご厚遇と、国民から受けた歓迎に対し、この国の王として改めてお礼を申し上げます。我が国との関係が常に友好であったとは申せません。しかし、その経験があるからこそ、ここにいる我らの時代には二度とあのような惨いことが起きてはならないと決意を新たにいたしました。皆様、今宵は存分にお楽しみ下さい。」
レオナール王の挨拶の後、リオ王妃だけが階段を下りきると、ウルバーノ王太子が近寄り彼女の手を取った。彼がホールの中央部までリオ王妃をエスコートしたところでワルツの音楽が流れる。
二人が、美々しく踊る姿をユリアーナは眺めていた。
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ウルバーノ王太子とリオ王妃が一曲踊り終え、新しい曲がかかると、人々は踊り始めた。ユリアーナもヴィレムと踊り始めた。
「こんなに沢山の方が出席する舞踏会は、本当に久し振りで少し緊張してしまいます。」
「この沢山の女性の中でもユリアが一番に優雅で洗練されているよ。」
ユリアーナが、辺りに視線を移すと、ヴィレムの異母弟のクリストッフェルが、同年代の女性と踊っていた。彼は今夜同伴者無しで参加しているはずだった。
「ヴィム、クリストッフェル殿下はどなたと踊っているのでしょう?」
「プリズマーティッシュの貴族にでも誘われたのだろう。」
「殿下がどなたかと踊っているところを見たことがなかったので。国が変り、少しは楽しめていらっしゃるのかしら?良うございましたね。」
ユリアーナが見るところ、クリストッフェルは自国で、王太子妃アンドレーアの目があるために、王子と言っても常に自身の気配を消して過ごしているように見えていた。踊りの誘いがあったとしても断わってしまうことが多いようにも見えた。友好国ではないにしても、国が変ったという環境の変化は、悪いことだけではないようだった。
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アンドレーアは、他国の貴族の幾人かと踊り、再びマウリッツと踊っている。
この国への来訪に合わせ仕立てたドレスは、エパナスターシの社交界では避けられている純粋に黒いドレスだった。トップはエパナスターシの慣例に則って手の甲まで隠れる長袖の総レース。スカート部分は光沢のある生地が幾重にも重なったデザインになっている。
「あの、レオナールと言う王は、この大陸を自らが治めている気にでもなっているのでしょうか。近隣国が集まっているこの場であのような挨拶をするなどと。」
「アンドレーア。私は女性がそのように言う事は好きじゃないな。」
「あなたの母上も政治に口を挟むでしょう?」
「母はね、産まれてから父と結婚すまでの間ずっとマッティスの領地で育ったんだ。王都では分からない様々な事を領地で学んだと言っていた。君は、生まれてから今までずっと王都を離れて住んでいたことがないだろう?そもそもの見えているものが少し違うんじゃないかな。」
マウリッツは、アンドレーアを鋭い言葉で傷付けたり、怒鳴ったりなどはしない。しかし、いつもアンドレーアはマウリッツの言葉に傷付けられる。
何を話しても受け入れてもらえず、相手にされない。愛されなかったとしてもせめて、共に戦う同志になりたいと思うことはそんなにも贅沢なことなのだろうか。
ため息を吐いたアンドレーアに、マウリッツは笑っていることが一番だよと悪気もない様子で言った。


