第三幕、御三家の矜持

 学校を出るときには「あまりの勉強のできなさに月影がますます冷たくなってきてる」と悲しそうに呟いていた雅は、そんなことは忘れてしまったかのように今更月影くんの姿を探す。松隆くんは口の中でパチパチなるアイスを食べながら「おもりじゃないんだから」と呟いた。隣に座る桐椰くんの肘が松隆くんを小突き、雅の手は松隆くんの胸倉を掴もうとして止まる。アイスが零れるのを憚ったからだ。


「でもさぁ、ほら、アイツ暇そうだし」

「確かにお前の勉強は見てるけど、暇じゃねーと思うぞ」

「勉強しなくてもいいんだから暇じゃん?」

「まぁ、その意味では暇だよね」

「つか月影ってちゃんと女子に興味あんの?」


 今日私が踏んだ地雷を話題にされて、一瞬、アイスを食べる手を止めてしまった。


「なんで?」

「だってマジでガン無視だぜアイツ! 話しかけられても話しかけられていないかのような無視っぷり!」

「大丈夫、いつものことだから」

「それでいいのか……!?」


 平然と頷いてみせる松隆くんに雅だけが愕然としている。桐椰くんは、ハート形のチョコレートの埋まった可愛らしいアイスを口に運びながら首を傾げた。


「でも昔からじゃなかったよなー。さすがに中学の頃はガン無視はしてなかったと思う」

「単純に無愛想だからね、アイツ。で、女嫌いだし」

「なんで?」

「さぁ、知らないよ」


 この話、前に月影くんの誕生日プレゼントを買いに行ったときにも話したな……。本人が女嫌いを自称してるだけで、理由も何も知らない、と。

 話し始めると気になったのか、桐椰くんは益々首を傾げる。


「アイツってどっちかいうと、女嫌いとかそういう十把一絡げな考え方はしないタイプなのにな。女だからどうとか言わなさそうじゃん、寧ろ『女性というだけで一義的な評価をするのは馬鹿の極み』とか言いそう」

「うわー分かるー」


 分かりすぎて激しく頷いてしまった。さすが幼馴染。


「何かあったのかなー……」

「あ、あと月影が女遊び酷いって話は?」

「桜坂が席を外してるときならしてもいいけど」

「そんな私に言えない話ですか?」


 本当か嘘かの一言を答えれば終わる話なのでは? 白い目を向ければ、桐椰くんが「お前最近よくねーぞ」と代わりに咎めてくれる。でも松隆くんはどこ吹く風だ。