逸る気持ちを抑えきれずに立ち上がった私に、ベッドに座ったままの芽吹が両手を伸ばしてきた。引っ張ってほしいのかと思って、両手に触れて力を込める。
引こうと思って後ろに下がったその時、芽吹が逆に引っ張ったせいで身体が前のめりに傾いた。
「っ、」
声を出すより先に目を瞑って、為す術なく前に倒れ込んでしまう。
手が離れたかと思うと背中に回されて、額に固いものが勢いよく当たった。
「痛ってー」
単調な声。
恐る恐る首を動かして視線をうつせば、芽吹が美しいかんばせを歪めている。
「私石頭だから痛いよ?」
「今実感した」
どうやら肩に私の頭が直撃したらしい。痛そうな顔をしながらも上体を起こした芽吹の、白いシャツを掴んでおとなしく黙る。
「頭突き大会だったら誰にも負けないんじゃないの」
「そんなのあったらとっくに優勝してるよ」
彼の上からおりようとした私を止めた彼は、静かな眼で私を見た。チョコレートみたいに、黒い、瞳で。睫毛長くて、すこし切れ長で、アーモンド。
射抜くみたいに淡々としてる。いつからこの眼を真っ直ぐ見れるようになったのかなんて、はっきりと覚えていない。
いつからかな、とか。初夏とは似ても似つかない、凪いだ冬みたいな感情が、私を占めてしまったのは。
いつからかな。
彼の頬に触れる。
「彗」
いつからかな。
お互いの相乗効果で、冬みたいな感情に私が掴まれたのは。



