よくわからない。
よくわからないけどもう動揺もしなくなってしまった。私と彼はこれが日常になりつつある。
「ありがとう。芽吹と一緒だと楽だよ、掃除が」
「おまえ俺に全部やらせる気だろ」
すこし笑った芽吹の柔らかさに安堵した。
学校の彼には慣れない。
「彗」
「何?」
思わず凝視しすぎていて、名前を呼ばれてハッとする。何もない風に装うと芽吹の指先が伸びてきて、頬を掠めた。
動揺しない代わりに目を逸らせない。そんな私にまたわらった芽吹の、ちょっと温度宿った瞳が。
何かに似てる気がした。
「髪、」
「うん?」
「髪食ってた」
「気づかなかった」
わらった顔、もっと見せていけばいいのに。
そんなこと思うくらいわらった顔は柔らかくて、穏やかで、やさしい。
「ありがとう、芽吹」
芽吹の深い茶の瞳の表面に映った私は、あまり表情が動いてなかった。そんなこと考えてる暇があるほど、距離がなんだと感覚が麻痺してる。
彼は何も言わない。だから私からいつも空気を破る。呆れるほど心地が良いから。
「別に」
手が離れていく。ぼうっとまたプールのほうに視線を向けても明るさに目が痛い。倒れた箒がなんだか寂しそうに見えた。
ベンチから立ち上がり、日陰から一歩外に出る。アスファルトの熱と感触が足の裏に接して、暑さに晒される。



