香に腕を締め付けられながらも、あたしは無事に正門付近の駐輪場にたどり着くことができた。



「あ、あれだよ!」



 腕をギチギチに締めている香が指をさす。



「うっわ……」



 な、何あれ。


 視界に捉えたのは、鮮やかな金のラインが入った黒を基調とするバイク。


 その艶やかな光沢と存在感に思わず感嘆の声が口から漏れた。



「じゃ、あのバイクの近くで待っててね!」

「俺らは先行ってるなー」

「また倉庫で会おうっス!」


「は、ちょっと待って!!」



 急に去ろうとする三人を呼び止めるが、「すぐに迎えが来るから」とだけ言い残して彼らは自分のバイクを探しに行ってしまった。


 みんなが送ってくれるんじゃないのかよ……。


 ぽつんとその場に一人取り残されたあたしは、先ほどのバイクに近づいてじっくり眺める。



「誰のなんだろ……」


「俺の」


「うわっ!」



 ただの独り言に誰かが返事をした。


 驚いてバッ!と勢いよく振り向けば、



「……輝?」



 どうやらこのかっこいいバイクは、目が半開きの銀髪のものらしい。


 驚くあたしをよそに、彼はバイクに跨ってぽいっと黒のヘルメットを軽く投げつけてきた。……乗れってことかな。


 あたしは投げ渡されたメットを被り、右足を後ろに振り上げてバイクに飛び乗った。



「……乗ったことあんのか」



 半開きだった輝の目が少し大きく開かれる。



「え? あ、昔はよく暁のバイクに乗せてもらってたから!」



 咄嗟に言い訳をしてしまったが、嘘はついていない。乗り慣れてるのはあたしもバイクに乗れるからだけど、一応そのことは伏せておいた。



 その返答にあぁ、と簡単に納得した輝は「掴まっとけ」と言ってエンジンをかける。


 あたしが彼の腹に手を回した直後、バイクが発進した。