そう伝えると、
「あの荒野がお兄ちゃんって……!」
ギャハハ!と笑い出す失礼な奴が一名。
「うっさいな!!」
ターゲットに向かって勢いよくぶん投げれば────「っ、てェ!」とソレは奴の額に見事命中した。
「おい! カバン投げんなよ!」
茜の手にはあたしのピッカピカの制カバン。
「柔らかいから痛くないでしょ」
「いや教科書も入ってるし痛かったわ!」
「教科書まだ届いてないからノートしかないけど?」
「そういう問題じゃねェ!!」
チッ!と盛大に舌打ちして、茜があたしに制カバンを投げ返す。あまり勢いがなかったから普通にキャッチできた。
「媚び売るどころか喧嘩腰ってすげえな〜」
あたし達のやり取りを見てなぜか感心している様子の藍。……そんなことを言われても。
「媚びなんか売ったとこで何にもならないし」
そう言うと、藍は一瞬面食らった顔をして「変な奴ー」とすぐに笑い出した。別に変じゃないっつの。
「でもよ〜」
……なんだ?
ゆるい話し方は相変わらずだけど、ガラリと雰囲気が変わった。彼の放つ威圧感に空気が張り詰める。
「“あいつ”に、無理やり近づいたりはすんじゃねえよ?」
へらり。笑った藍の瞳は、酷く冷たい色をしていた。
「約束する」
“女嫌い”の奴にそんな最低なことしないよ。
即答すれば、「……じゃ。これから仲良くしような〜、八永ちゃん?」と。さっきまでの緊迫した空気は消えていて、心にもない言葉を吐いてきた。



