「逆になーんでそんなに嫌がんだよ。どんな理由でも“暴走族”とは関わりたくねえとか〜?」


「そういう訳じゃないけど……」



 じゃあ何が嫌なんだよ〜と藍に問い詰められる。


 彼が言うように“たとえ正統派でも族とは関わりたくない”と嫌がったら諦めてくれそうな気がするけど、その断り方はあたしが嫌だった。



(どうしようかなぁ)



 まさか彼らがここまで頑固だとは。他にどう断ろうかと考えを巡らせるものの、なかなか良い言い訳が思いつかない。


 周囲から感じる複数の視線をすべて無視して黙り込んでいれば。




「──お前、何をそんなに怖れてる」




 突然、輝があたしの目を見据えて言い放った。


 それは他の族に狙われていることじゃなくて、“別の何か”に怖れていると決めつけたような言い方で。


 まさかそんなことを言われると思ってなかったあたしは「っ、」動揺を隠せなかった。



「俺らは強い」



 そのすべてを見透かしたような漆黒の瞳はあたしを捉えて離さない。


 相変わらず無表情だけど、彼の目は“安心しろ”と言っているように感じる。


 ──その言葉で昨日の父さんの言葉が蘇った。



『彼らはそんなに弱いのか』



 ……いや、弱くなんかない。


 彼らの強さはあたしもよく知っている。


 
 心の中で深い深い溜め息を吐き、あたしは決して目を逸らそうとしない輝を、その澄んだ漆黒の瞳をじっと見つめ返す。



(……姫を辞退する言い訳、他に思いつかないしな)



 それはまるで自分に言い聞かせるような言葉で。これ以上悩むのを諦めたあたしは、「……わかったよ」とやがて小さく呟いた。




「“閃光”の仮の姫になる」




 ────彼らを傷付けそうになった時には、また姿を消せば良い。