「元総長のアメが今度は姫って、面白いね」



 話を聞いたクモがくすくすと笑う。


 彼も──というか、この家に住む人たちはみんなあたしが“天色”の総長だったことを知っている。


 「姫か……似合わないなぁ」とまだ笑っている失礼な奴を睨めば、まるで気にした様子もなく微笑み返された。


 口調も笑顔も優しいクモだけど、実際は腹が真っ黒で意地悪なやつだ。



「……なんか失礼なこと考えてない?」


「げっ。……いや別に」



 クモが明らかに顔を顰めたあたしをじろじろ見る。そして「はぁ」と大きなため息を吐いて。



「それで結局、姫の件はどうしたの」



 微笑みながら“次はないよ?”と背筋が凍るような冷視線を送って話を戻した。怖っ!!



「そ、そりゃー断ったけど」



 だって守ってもらう必要がないし。



「……雨」



 この低く響く声は父さんだ。


 ゆっくりと、クモから父さんに視線を移す。


 鋭い闇色の瞳があたしを捉えた。




「お前はアイツが怖いんだろ」




 ────そうだ。


 あたしはアイツが怖くてたまらない。



「逃げてどうする。“閃光”のことが大事なら、姫でもなんでも一緒にいれば良い」



 ……そんな簡単な話じゃない。


 みんな個性豊かで面白そうな奴らだったし、あたしだって一緒に過ごしてみたいと本当は少しだけ思った────けど。




「もう、大切な人を傷付けるのは嫌なんです」




 あたしのせいで傷付いた彼らの姿なんて見たくない。