「──雨、帰ってたのか」
しばらくおっちゃん達を追いかけ回してギャーギャー騒いでいたら。
深みのある黒の着物を身に纏った父さんが、ちょうど階段を降りてきたところだった。
「「「親父!」」」
そう。父さんは荻荘組の組長だ。
──荻荘(オギソウ)組
荻荘組とは、関東最大規模の極道組織のこと。
父さんはそこの組長で、本名は荻荘 正人。
この仕事のせいか威厳ある風貌をしていて、深い闇のような髪と瞳と着物。父さんは絶対に“黒”しか身につけない。
「アメ!」
父さんの後ろから黒スーツ姿のクモが現れた。中のシャツとネクタイまで黒色だ。
荻荘組の若頭である彼は父さんの実の息子でもあり、本名は荻荘 雲人。歳は25。
あたしは下の名前から「クモ」と呼んでいる。
父さんによく似た端正な顔立ちに、灰白色の髪と黒縁眼鏡がよく似合っていた。
「雨、話がある」
二人のことを観察していたら、父さんに呼ばれた。
「わかりました」
あたしも話があって来たんだから。……たぶん父さんと同じことだろうけど。
頷いて、父さんの後ろをあたし、クモ、暁、コウの順でついて行く。
なんでついて来るんだよ!と突っ込みたくなったけど、父さんが何も言わないから黙っておいた。



