日本に戻り合った時も先日実家に帰る話しをした時も、彼は少し考えた表情を見せていた。

 ははーん、そういうことか。

 都合よく解釈した頭の中では、結婚という四文字がよぎった。

 イギリスから二年ぶりに帰った私も、今年で三十一歳になる。
 女性として輝き出し始める年齢だし、これから更に魅力を重ねることを考えると、彼氏にとっては気が気じゃないはずだ。
 いつ違う男性に奪われちゃうかもしれないんだから。

 電話に出て呼びかけると彼の声から気を使っていることが感じ取れた。

「あっ、京子。今日はごめんな引越しだって言うのに」

「いいのよ丁度片付いたし。それより今日も仕事でしょう? 打ち合わせの方は大丈夫なの」

「うん、まあ、俺の方も終わって」

 何処かよそよそしく感じる話し方だ。次にくるのはおそらく打ち明け話しだろう。

「もし良かったらこれから合わないか、話したいことがあって」

「うん、いいわよ。わかった。昔よく通った喫茶店ね」

 受話器を置くと確信をしていた。

 やはりそうだ! 

 階段を駆け上り再び部屋に戻ると、溢れ出す喜びを押さえ込むように体を抱きしめていた。目をつむり心の中で安心している。
 落ち着きを戻しながら目の前の引っ越し荷物が目に入ると、豊かな気持ちで悪態の言葉を呟いていた。

「今日は無駄な時間を使ちゃったじゃない」

 良かった、とても嬉しい。

 悪いことの後には、良いことも有ると思えた。
 デザイナー業は結婚を理由に休み、後で復帰すればいい。
 私は世間体のことも考え、休業する建前が出来たことにも安心していた。