そうなんすか、と笑う彼は何だか他の人とは違う。
少し、ほんの少しだけ安心出来るものがある。
「え、と」
「あ、俺っすか?俺は幸人っす。」
名前が分からないあたしに気付いた彼は、怒るわけでもなく優しく教えてくれた。
「幸人…さん」
「いやいやいや。なんでそうなったんすか」
ぎこちなく名前を呼べば苦笑いを返される。
座るあたしを困ったように見下ろす幸人さん。
「幸人でいいっすよ」
「で、も」
良いよ、といくら言われても簡単に呼べるものではなくて。
何度も言うけれど、あたしにとって彼等への一線引いた壁は自己防衛であって鎧なのだ。
「どーしても嫌っすか?」
あたしの前にしゃがむ幸人さんが首を傾げる。
なんだかその顔を見てたらあたしが悪い事してるみたいで。
「嫌、じゃない………のだけれど」
目を合わせようとする幸人さんの目から、逃げるように目を泳がせる。
縋るようにココアの入ったマグカップを握り締めて。
「じゃあ、せめて幸人くんとかでお願いします」
あたしと目を合わせる事を諦めた幸人さ…、幸人くんがそう言う。
「ゆ、きとくん」
辿々しく呼べば満足そうにあたしの前で笑う幸人くん。
