いや、正確に言うと、その隣に立つ建物だ。

その巨大な倉庫のような建物の中からは、何人かの叫び声が聞こえる。


「ああ・・・、これですか。」

正直、少しくたびれた様子の不動産屋が言った。


「プロ野球の二軍の選手たちの練習場です。その声がうるさいって、このアパートはあまり人気がないんですよ。」

「じゃあ、やめ・・・。」

「ここにする。」

断りかけた父親の声を制して、サトミはきっぱりと言った。


「ここって、お前・・・。周りも何にもないし・・・。」

「いえ、ここにする。」

娘の明確な返答に、父親は何もいえなかった。