「──よしっ、これで完璧だろ」
脚立に乗って、電気を磨いてくれたのは颯くん。
アパートに着くまでずっと脚立を運んでくれたから、わたしがやるよって言ったけど、駄目だ!と断られてしまった。
脚立をおさえていたわたしの内心は、はらはら。
怪我させないように万が一、颯くんがバランスを崩してしまってもわたしが受けとめつつ下敷きに、と……
でもその心配は大丈夫だった。
脚立からおりた颯くんに、お礼を言って最後のゴミ袋を結ぶ。
片付けは、これで終わり。
「……後は大丈夫か?」
「うん」
行きと同じように肩に脚立を抱える颯くんと、一緒に玄関へ。
最後の最後にしようと、玄関前に飾ってある写真をわたしは持った。
靴を履いて、家の中を見渡す。
ほどよく綺麗になった床も壁も、シミこそ残るものの、薄れたと思う。
空になった押し入れ、長年使った布団。
貧乏なりに幸せな日々を送った家。
わたしはゆっくりと頭を下げた。
「ありがとうございました」
悲しいけど、
仕方ないの。
本当は、家族三人でお別れしたかったけど。
わたしだけでも、ちゃんとお礼しないとね。
名残惜しい気持ちを抱きながら、
わたしはもう一度、ありがとうと伝えてアパートのドアを閉めた──
ばいばい、今までありがとう──



