特に心当たりはないのだけれど……
でも、近付くなって言われちゃったのには訳があるはずだし──
お茶を持ったまま立ち尽くすわたし。
「気にしなくていいですよ」
「響くん……」
二階からおりてきた響くんは、わたしの横を過ぎて冷蔵庫から水のペットボトルを取り出した。
一口飲むと、響くんはまた口を開く。
「颯くんはただ照れてるだけでしょ、あんなの」
「照れてた……?」
「貴女の湯上がり姿を見て」
「……え」
だとしても近付くな、っていうのが照れなの?
と言うより──
「聞いてたの?」
「ええ、階段の途中で。聞きたくて聞いた訳じゃないですけど。なんか貴女が気にしてるようだったので一応フォローしてみました」
水を手にソファへ座る響くんを目で追いながら、
わたしもソファの方へ歩み寄った。
「ありがとう、正直ちょっとびっくりして何かしたかなって思ったから……安心した」
「別に。お礼を言われることはしてないですよ。同じ家に居るのにギスギスされるのは面倒なので」
響くんの優しい部分が見えた、と思ったけど……ちょっと違った。
冷たさが含まれてた──あの笑顔みたいな。



