雨のせいで余計暗い部屋でも、昼間だから雪さんの姿はちゃんと見えて、途切れ途切れのメロディでも、


……綺麗──



「……ん?あれ、琉衣ちゃん?」


開きかけたドアに気付いたのか、雪さんは顔を上げてこちらを見つめた。


「あ……ごめんなさい、ノックは一応したんですけど……」


顔だけ覗かせて、小さく頭を下げれば雪さんは笑ってくれた。


「ううん、この部屋防音になってるから。俺もごめん。気付かなくて」

「いえっ、邪魔しちゃって……わたし下に戻りま──」

「良かったら隣、おいで?」


ぽんぽん、と椅子の端に移動し隣を叩く雪さん。
……邪魔にならないか、と思いつつも、わたしはゆっくり中へ入り、雪さんの隣へ腰かけた。


「……琉衣ちゃんも弾く?」

「い、いえ!」

「そう?」


遠慮しなくても大丈夫だよ、と言ってくれる雪さんだけど、わたしは習い事もなにもしたことはないし、ピアノなんて……めったに触らないから。まともに弾ける曲は特にない。


それよりも──


いつも雪さんは長めの髪をおろしたまま過ごしてるけど、今はひとつに結んでいて……なんだか新鮮だ。



初めて会ったあの頃は──


『お、俺には関わらないで欲しい……』


人見知りだから、と言って距離をとられかけていたのに……今じゃ雪さんの方から、隣に座るか聞いてくれるようになった。


──人間関係って難しいけど、警戒がとけてるってすごく実感出来る。