逃げ道を探すには遅すぎた

ここは十九世紀。差別が日常に当たり前のように溶け込んでいる時代だ。私がいた時代のように身分違いの友達なんてものは存在しないし、してはならないと考えられている。

シャノンは優しさで私を家に住まわせてくれているけど、いつまでも甘えていたらシャノンが結婚できない。ウィリアムだって相応の家柄のお嬢さんと結婚しなくちゃいけないはずだ。

二人とも私のことを好きだとか言っていたけど、きっとそれは勘違いだ。目の前で死んでしまったお姉さんがいきなりまた目の前に現れたから、舞い上がって恋愛感情だと勘違いしている。そうに違いない。

「二人から、離れなきゃ……!」

行く宛てなんてどこにもない。でもここにいたらダメだ。私は立ち上がろうとした。しかし、背後から何者かに抱き締められる。一人……じゃない。二人に抱き締められている。

「誰から離れるって?」

「雫、酷いじゃないですか」

耳元で囁かれた二つの声は低く、怒っているようだった。首筋に鋭い痛みが走ったと思った瞬間、私の意識は暗闇の中に落ちていた。