逃げ道を探すには遅すぎた

そう言った瞬間、頰に痛みが走った。誰かに頰を打たれたのだ。ジンジンと痛む頰に触れる。三人は顔を真っ赤にして怒っていた。

「ウィリアムですって?呼び捨てなんて失礼にも程がありますわよ!」

「ウィリアム様はお若くして伯爵を継がれたお方ですわ。あなたみたいな愚民はそれがどれだけすごいことかわからないでしょうけど」

「しかもあなた、イケメン小説家のシャノン・ハーヴィーと一緒に暮らしているんですってね。どれだけ男をたぶらかすのがお上手なのかしら」

三人は口々に言い、馬車に乗って去って行った。私はそれを見ながら初めて自分の手が震えていることに気付いた。自覚した瞬間に震えはさらに酷くなる。

「……う、あ……」

呼吸がしにくくなったような気がした。その場に崩れ落ちてしまう。荒い呼吸を繰り返しながら考えた。

(私、二十一世紀の時と同じように考えてた。でもこの時代の価値観は違うんだ。忘れてた)

本来ならばシャノンとウィリアムは関わることなんてなくて、私なんてさらに関われない存在で……。私は二人の優しさに甘えていたんだ。