逃げ道を探すには遅すぎた

拳を握り締めて歩き続ける。ブルリと体が震えた。ロンドンは日本より寒く感じる。おまけに空は分厚い雲に覆われている。

歩いているうちに夜になってしまった。結局、寝るのに安全そうなところは見つからなかった。どうしよう。裏路地なんて怖くて入れない。

困り果てている私の頰に冷たいものが当たる。雨だ。降り始めた雨はあっという間に土砂降りになり、私の全身を濡らしていく。

「さ、寒い……」

体を震わせながら雨宿りできそうなところを探す。すると、裏路地から二人の男が出てきた。ニヤニヤとこっちを見ている。嫌な予感がした。

「お嬢ちゃん、こんな雨の夜にどうしたんだい?そんなに濡れて可哀想だね」

「うちで雨宿りしていくといいよ。裏路地に家があるんだ」

二人の態度から親切で声をかけたんじゃないんだとわかる。私は「結構です」と言って二人から離れようとした。しかし、腕を強く掴まれてしまう。

「東洋人の割に英語がうまいな。中国人か?」

「変な格好だな。下はどんなものを身に付けてるんだ?」