逃げ道を探すには遅すぎた

『神社の前に屋台があったから、そこで買おうか』

屋台はたい焼きのお店だ。定番のこし餡や粒あんをはじめ、カスタードや抹茶など様々な味が選べる。私は抹茶を、ウィリアムはカスタード、シャノンはチョコレートを選んで近くのベンチで座って食べる。

『そういやさ、雫っていくつなんだよ?親いねぇの?』

シャノンの質問に胸が斬り付けられたような痛みを覚える。私は笑みを何とか作った。

『私は十八歳だよ。家族はいないんだ』

また嘘。でもウィリアムもシャノンも疑うことなくたい焼きを食べている。それに少しホッとした。ーーー家族の話だけはしたくない。

『ゴミ、捨ててくるね』

食べ終わったたい焼きのゴミを持って立ち上がる。思い出したくもないのに、シャノンに訊かれたせいか、家族と呼ばれる人たちのことを思い出してしまった。

私の両親は東大に合格して、一流と呼ばれる企業でバリバリ働いている。そんな両親の親ーーー私から見て祖父母に当たる人物も全員が東大かそれに並ぶ有名大学を卒業している。だから、私と二つ下の弟は幼い頃から「東大に入れ」と言い聞かされて育った。