『桜…』
『ごめんな、桜…』
誰かの声が聞こえる。
「あ、起きた」
視界が開けてきて、最初に見えたのは天井。
見覚えがなく困惑する。
「ここは病院だよ。桜、高熱で倒れたから」
「高、熱…」
「桜、大丈夫か?」
ふと、目の前にロープとガムテープが過ぎる。
「いや…。いや!」
怖い、怖いよ。誰か、助けて…!
「桜!?」
「桜、落ち着いて。吸ってー。吐いてー」
少し気分が落ち着いてきた。
すると、お医者さんらしき人が入ってきて診察を始める。
「まだ熱が下がっていませね。おそらく、ウイルス性の感染症でしょう。…体調も安定していませんし、もう少し入院して様子を見ますね」
「…」
「先生、桜の様子がおかしくて。急に発作を起こして、何かに怯えているかのような…」
「もしかしたら、このコードがロープに見えたのかも」
「は?まさか、あの事件のストレスで…」
「それも考えられますね。…心的外傷後ストレス障害の可能性も」
「そんな…」
「桜、何があったか思い出せる?」
「男の人に、ナイフを向けられて…。ガムテープと、ロープと…」
「分かった。無理に思い出させてごめん…」
「俺があの日、一緒にいてやれれば!」
「陽太は悪くない。…俺があの時、もっと早く駆けつけられていれば」
怖い。苦しい。
男の人に突き飛ばされた感覚や、目の前にナイフが迫る様子が何度も思い出されて苦しい…。
突然の眠気に、私はそのまま微睡みの中に沈んでいったのだったー。

