「な…なんでっ、そんな……ふざけるなっ」
背後から男が仁睦さんに掴みかかったのが見えて、思わず声をあげそうになったがすぐに振り返って男の腕を逆に掴んだ仁睦さんは、煙が出ている車の車体に男の身体を押し付けて抵抗できないように力を入れて拘束する。
「なんで…?理由なんてひとつしかねぇだろ。英里が攫われたって聞いた瞬間、ハッカー集団に連絡を取って全世界に一斉にリークさせた」
「なんてことをっ……お前らだってタダじゃすまねぇぞ」
「どーだろうな。けどまぁ…ウチはコイツさえ無事に帰ってくればそれでいいから、何ひとつマイナスに思うことはねぇよ」
「……ふざけるなっ、なんで、こんなっ」
「悲観してるところ悪いが、さっさと逃げねぇと…お前消されるんじゃねぇの?本来なら俺が今すぐに殺してやりたいところだが…コイツの前で殺しはデキねぇから…逃げるなら今しかないぞ」
仁睦さんに凄まれた男は…煙が薄くなり始めた車内へ戻り、猛スピードを出してその場から逃げるようにして去っていった。
事故車両とその関係車両…のように周囲の車からは見えていたのか、どうやら通報されたみたいで後ろからパトカーのサイレンのようなものが聞こえてきた。
すぐに車内に乗り込んできた仁睦さんが「出せ」と運転席に座る剛田さんに声をかけたことにより車がゆっくりと発進する。
短時間に色々ありすぎてすっかり放心している私の手をそっと握った仁睦さんは─…
「……お前の席はそこじゃねぇだろ」
と言って握った手に力を込めてグッと引き寄せると、自身の膝の上に私を座らせた。
「っ、仁睦さん…わたし、」
「─…英里、おかえり」
「…………えっ…?」
「あまり、心配ばかりかけるな…」
「っご…ごめんなさっ、」
「……俺の心臓が持たねぇ」
目にかかる前髪を、優しく指で横に流してくれる推しは……そのまま私の唇を塞いだ。



