しばらくして抱きしめていた腕を解いた仁睦さんは、私の頬を伝う涙を指で拭うと、、
「─…よくやった、英里」
なんて褒めの言葉を述べると…ポンっと再び私の頭に手を乗せてくれる。
「俺からお前にひとつ、アドバイスしてやる」
「……アドバイスっ、」
「明日から、大学には行くな」
──…はい?!!!
「いや、行かせない。その西園寺って奴を始末するまでは…この屋敷から一歩も出さない」
「っな…んで、これはタダの相談だって…」
「あぁ…そーだな。タダの相談ごとだ。お前がその男を裏切った訳じゃない。俺が気に入らねぇから始末するって…それだけのことだ。お前は何も悪くない」
「始末するって…なに?!まさか殺したりしないよねっ…?!きっと何か事情があるんだよ、お願いだから光くんを始末するなんて言わないで」
──私は、何を勘違いしていたのだろうか。
「……は?お前に指図される覚えはない。気に入らねぇ人間を始末するのに、お前の許可なんて要らない」
「会ったわけでもないのに、始末するなんて」
「裏社会を生きる人間なら、自分も殺される覚悟をするべきだ。そいつに事情があったところで関係ない─…もう既に、知りすぎてる。」
「─…仁睦さんっ、」
「事が解決するまで、お前はこの屋敷から一歩も外に出さない。これはアドバイスでも提案でもない─…命令だ。勝手な真似をすれば今度こそ、俺がお前を殺してやる」
彼が極悪非道な世界を生きる人だって、知ってたつもりだったけど…全然分かってなかった。
人の生き死にを自らの決断で決めてしまう、それが彼にとっては当たり前なんだって─…この時はじめて、住む世界の違う人なのだと実感することになった。



