「絢音、このあとなにか予定ある?」
「…………」
「……絢音?」
「え? あ、ごめん。なに?」
おれはむりに口角をつり上げて、言った。
「これからちょっとだけ、おれに付き合ってくれない?」
よく晴れた休日の午前。
わずかな人を乗せたバスの中、先に乗りこんだおれはうしろから二列目の席の窓際に座り、絢音は周囲の目を気にしてかそのななめ後ろの席に座った。
「それで、どこ行くの?」
バスの発車後、しばらくしてから、絢音が身を乗り出すように話しかけてきた。
「どこか行きたいところある?」
「わたしはどこでもいいけど」
「じゃあ、どこも行かない」
「……え?」
バスに乗っておいてどこにも向かわない。いたずらに振りまわしてるつもりはないけど、絢音の訝しげな声を聞いて笑いがこみあげてきた。
こみあげただけで、実際にはほんの少し目を細めるだけ。
「ごめん。ただこうして、絢音とバスに乗ってみたかったんだ」



