涼くんはわたしの言葉を睨みつける目で聞いた。
そして、いったん目をそらすと、頭をかきながら今日一番の大きく長いため息を吐いた。
「はあ~……」
数年分のため息をまとめて吐き出すつもりなんじゃないかと思うくらい重い息を吐くと、今度は無に等しい表情でわたしをガン見してきた。
思わず唇を噛みしめてしまったのは、無に等しい涼くんの表情に怒りが見えたから。
「昔っから恭くん恭くん。そんなに恭花が好きなら、ほかの男の家にノコノコ上がってんなよ」
「わたし、べつに恭くんが好きなんて言ってない」
「じゃなんで、恭花のためにわざわざこんなとこまで来てんだよ」
「恭くんが立派な人だからだよ。応援したいと思うのは、そんなにいけないこと?」
「立派ねぇ……。芸能人だろあいつ。どうせ裏でアイドル食いまくってるよ」
音のなかった空間に、弾けるような音が響き渡った。
気づいたら、卑しい表情を見せる涼くんの頬を叩いていた。



