どうしてその男性に目がとまったかというと、まわりがせわしなく働くなかで、彼だけがゆっくりと歩いていたから。
まるで彼だけ時間軸が違っているような。
ぴりりとした緊張感のようなものがわたしのなかを駆けめぐる。
その男性はわたしたちのところまでやってくると、「相良くん」と声をかけてきた。スマホをいじっていた恭くんは顔を上げ、ぱっと表情を明るくする。
「米原監督!」
……米原監督?
この名前、どこで聞いたことが……。
あっ、思い出した!
まえに恭くんが上がった舞台の演出をしていた人だ!
恭くんがこの人のことを無邪気に褒めていたからよく覚えてる。
「ひさしぶりだね。きみの活躍は、人づてだけど耳にしてるよ」
「おひさしぶりです。また監督とお仕事をしたくて必死です」
「いやいや。今ならオーディションじゃなくて、僕からきみにオファーしたいくらいだ」
「ぜひ。お待ちしてます」
笑みを浮かべ、声に緊張を隠しきれてない恭くん。この姿を見るだけで、恭くんにとって彼がどんな存在かわかる。



