七月十二日、里桜の馬車はプリズマーティッシュの城門を潜った。

 王宮のエントランスに里桜が現れると、駆けつけたのはレオナールだった。
 挨拶などする隙もなく、里桜はレオナールに抱き寄せられた。

「陛下。皆が見ていますし、本来は玉座の間で解団式を…」
「陛下。」

 アルチュールの声がエントランスに響く。

「あれほど、玉座の間でお待ち下さいと申し上げたではありませんか。」
「最後の騎士たちが王城に着くまではまだまだ時間がかかるだろう。だから私とリオで先に玉座の間へ行っているから、全員揃ったら玉座の間に来るようにアルチュールが言えば良いだろう。」

 一ヶ月以上を留守にしたが、何も変らない懐かしい人々に、里桜は思わず笑った。

「全員揃ったら、俺が玉座の間に移動させるから、レオナールは王妃を連れて先に行ってろ。」

 ジルベールが呆れたように言った。

「あぁ。ジルベール後は頼んだぞ。」

 そう言って、レオナールは里桜の手を引いて歩き出した。


∴∵


 その夜、二人は久し振りにゆっくりと話した。

「それでは、お義母様は私が報告した手紙をご覧になってエシタリシテソージャへ兵を向けよと仰っていたのですか?」
「あぁ。あまりの立腹具合に笑ってしまった。」

 里桜とレオナールは声を出して笑った。

「王太后は、リオやマルゲリットを本当に大事に思っているようだ。」
「えぇ。ルイのことも大切にして下さっていますよ。」
「正式にエシタリシテソージャから縁組みの手紙が来ても、あの分ではマルゲリットを他国には嫁がせようとしないだろう。他国へ嫁げば会えなくなってしまうからな。それと、ゲウェーニッチから王太子の留学の打診があった。側近を含め三人で今年の秋から留学させたいと。しかも、この国で魔獣討伐の訓練をしたいと。」
「そうですか。」

 レオナールは里桜の手を取った。

「リオはあの国で何をしてきたんだ?」
「何も。ただ、結界を張り直す理由を聞かれたので、テレーズの幸せを願っているとお話ししただけです。」

 レオナールは軽く頷いた。

「カルロ陛下より、結界の効果が思った以上だったと、魔獣の出現も大幅に減少していると、丁寧なお礼の手紙が送られてきた。」
「そうですか。それは一安心です。」
「それと一緒に、王太子の無礼を詫びる言葉も書かれていたのだが…」

 里桜は覗き込んできたレオナールに笑顔を見せる。

「大した事ではありませんよ。ただ、少し行き違いがあっただけです。大問題があったら、殿下が留学したいなどと言い出すはずがないではありませんか。」
「まぁ。そうだな。」

 そして、レオナールの頬をそっと触った。

「将来の娘婿ですよ。こちらに来たら、沢山のことを勉強してもらいましょう。私は陛下の体現なさる国王像がとても素晴らしいと思っています。偉ぶったところがなく、親しみやすいお人柄の陛下のことを見習いたいと常日頃思っています。私はフェデリーコ殿下にもそう言う国王の姿もあるのだと知って欲しいのです。もし、フェデリーコ殿下が、陛下のような国王になられたら、テレーズも幸せになれるはずです。私のように。」
「褒めすぎだな。」
「そうですか?」
「あぁ。褒めすぎだ。」