俺には仲のいい男友達がいる。中村という。
 ところが、ここ最近、その友達の音沙汰がなかった。俺は気になって、電話をかけた。
 「もしもし、本田だ」俺の苗字。
 「ああ」
 「最近どうしたんや」
 「うん。隙間の女が放してくれなくてさ」
 俺はぞっとした。隙間の女というのは、都市伝説に出てくる家具と壁の間に住んでいるぺらぺらの女のことだ。どういうことだ。俺は恐怖した。
 「だ、大丈夫か」
 「大丈夫だ」
 と、中村は暗くいった。どうやら大丈夫じゃないみたいだ。
 「そうか」
 「ああ、いつかまた遊ぼう」
 「ああ」
 そういって、電話は切れた。
 「いつかまた遊ぼう」というのが気になった。いつかって・・・・・・。
 俺は心配になった。中村はどうやら、隙間の女という妖怪に憑りつかれているらしい。助けに行こう、と思った。
 俺はとりあえず、お守りを持った。「ああ、神様、中村を助けてやってください。アーメン」俺はお守りをバッグに入れた。

 俺は中村の住んでいるマンションへ行った。中村の部屋の前に立つ。呼び鈴を押す。ぴんぽーんと音が鳴った。
 じっと待った。もう一度ぴんぽーんと呼び鈴を鳴らした。じっと待った。ん、いないのか。俺はドアノブを回した。カギがかかっていた。俺はドアをたたいた。
 「おーい、中村、俺だ、本田だ」
 と、俺は大声を出した。
 すると、しばらくして、ドアが開いた。
 中村が出てきた。中村は顔や手にばんそうこうをはっていた。その顔はやつれていた。俺はぞっとした。
 「ああ」
 と、中村。
 「どうしたんやあ」
 と俺は思わずいった。
 「ああ、ちょっと転んじゃって」
 と、中村。
 「そうか」
 俺は不気味に感じた。
 「入っていいか?」
 と、俺はいった。
 「あ、ああ」
 俺は玄関に入った。中村が靴を脱いであがった。俺も靴を脱いであがった。
 リビングに入った。テレビとソファ、机があった。
 「机についてくれ」
 と、中村はいった。
 「ああ」といって俺は机についた。
 「俺、トイレ行ってくるから」
 と、中村はいった。
 「ああ」
 中村はリビングを出ていこうとした、そのとき、
 「隙間の女、その辺にいるから」
 といった。俺はぞっとした。中村はリビングをでていった。
 俺は、家具の間の隙間が気になった。俺はバッグからお守りを取りだし、握り締めた。
 「神様、お守りください。アーメン」
 俺はたった。そうして、家具と壁の間を見に行った。
 そのとき、
 「おい」
 俺はぞっとした。
 中村だった。
 「どうした?」
 と中村はいった。
 「え、あいや、そのお」
 俺は詰まった。
 「隙間の女さ」
 俺は意を決していった。
 「ん?」
 「家具の隙間に住んでいるやつさ」
 と、俺はいった。ところが、
 「はははははははは」
 と、中村が大爆笑した。
 「ん?」
 「あ、悪い悪い。言葉が足りなかった」
 と、中村。
 「え」
 「隙間の女ってのは、物と物との間に挟まるのが好きな女って意味さ」
 と、中村。俺は止まった。
 「ほら」
 と、中村が指さした。見ると、家具と家具の間に白い服を着た髪の長い女性が座っていた。俺はぞっとした。気づかなかった。
 「気づかなかったろ。あいつ影薄いからなあ」
 と、中村。
 俺はとりあえず、女性にあいさつした。女性はこくりと会釈した。
 俺はすべてを理解した。つまり中村はこの彼女とラブラブな生活をしていて、最近俺と会えなかったのだ。俺はにやっとした。
 「そういうことか。なら、俺、帰るわ」
 「え、今来たばかりだろ」
 「いやいや、帰るわ」
 「そんなこというなよ」
 「いいから、いいから」
 「そ、そうか」
 中村は暗くいった。ん、なんか様子がおかしい。彼女がいるなら、俺は邪魔なはずだ。
 俺は不審に思いながら、玄関へ行った。靴を履く。
 「ほんとに帰っちまうのか」
 と、中村。
 「ああ」
 と、俺。やはり中村の様子がおかしい。俺はドアをあけた。
 「あのさあ。よかったら、また来てくれよ」
 と、中村。
 「まあ、お邪魔じゃないときにな」
 と、俺はにやっとしていった。
 「いつでも来いよ」
 ん、やはり中村はおかしい。見ると、顔が青ざめている。まるで俺に帰ってほしくないようだ。
 「じゃあ」
 と、俺はいって、出た。
 しかし、次の瞬間、中村の様子がおかしい意味がわかってぞっとした。