女性は車を走らせていた。女性は大きなトラベルバッグを助手席に置いている。
 何もない田舎道だ。
 遠くにガソリンスタンドが見えた。女性は寄ることとした。
 女性ががスタンドに入ると中高年くらいのおじさんが出てきた。ちょっとこわもてだ。
 女性は受け答えして、ガソリンを入れてもらった。
 そうして代金を払うと、車の戸をすべてロックした。
 と、おじさんが突然、何かに気付いたかのように、窓に迫って来た。
 え、と女性は思った。
 と、おじさんが、どんどんどん、と窓をたたき出した。女性は恐怖におびえた。
 「不審者、不審者!」
 と、おじさんが、大声をあげた。
 え、不審者!、不審者呼ばわりいいいいいい。
 「不審者、不審者」
 と、おじさんは大声をあげている。

 どんどんどんどん。

 え、何、不審者って何?女性は不安を感じた。
 「ナイフ持ってんじゃないか、刃物もってんじゃないか」
 と、おじさんは大声で怒鳴った。おじさんは怖い顔をしている。
 え、と女性は思った。助手席には大きなトラベルバッグを置いてある。ひょっとしておじさんは私のバッグにナイフや刃物が入っているって言ってるんだろうか?
 「不審者、不審者、ナイフ持ってんじゃないか、刃物持ってんじゃないか」
 と、おじさん。

 どんどんどんどん。

 何、このかばんの中には何も入ってない。そっちこそ不審者じゃないの!
 「不審者、不審者」
 と、おじさんは怒鳴った。ところがおじさんは、車の窓から離れると、スマホを取り出した。
 え、何?まさか、警察に通報!冗談じゃない。カバンの中にはナイフも刃物も入ってないけど、なんかめんどくさいし、何より不審者扱いが嫌だ。女性はエンジンをかけると、自動車を発進させた。と、おじさんがおっかけてきた。
 「不審者、不審者、ナイフ持ってんじゃないか、刃物持ってんじゃないか」
 おじさんが怒鳴っている。女性はなんとか振り払って、ガソリンスタンドを出た。
 「不審者、不審者、」
 と、おじさんの怒鳴り声が後ろから聞こえる。
 「後ろを見ろ」
 と、おじさんの声が後ろからする。
 ばーか、あんたみたいに人を不審者呼ばわりするやつなんか、見るか!そう思って女性は車を走らせた。
 女性はずっと車を走らせた。はあ、と女性はため息をついた。なんなんだ、あれは。人を不審者呼ばわりして。心外極まりない。自分こそ不審者じゃないのか。ああ、腹立つ。と女性は憤慨していた。大声をあげたい気持ちだ。「この人を不審者呼ばわりする、人でなし」とでもあのおじさんに叫びたかった。

 女性はいらついていた。ああ、まだむしゃくしゃするう、と女性は思った。そうして、女性はふと、後ろを振り返った。