麻那人の方がびっくりしていた。
「なんで帰っちゃうの……嫌だよ……やだ……」
涙が溢れて止まらない。
「せっ、せっかく追いかけ鬼を倒したのにっっなんで……寂しいよぉ……」
ひっく、ひっくと光は話す。
「光……」
「しっかり見送らなきゃって思ってたけど……寂しいよ……麻那人っうぅう……うわーん」
麻那人に抱きついて、たくさん泣いてしまう。
楽しい思い出がいっぱい溢れて流れていく。
「僕がどこに行くの?」
「魔界に帰るんでしょ? っひくっ嫌だよっ寂しいよっ」
「誰が言ってたの?」
「ファ……まんじゅう悪魔おじさん……」
ファルゴンだっけ? 途中から自信がなくて思ってた呼び名を言った。
そう言ったら、ふふっと悪魔王子は笑った。
そして、ぎゅーっと麻那人も光を抱きしめてくれた。
「僕はまだまだ、此処にいるつもりだよ」
「えっ……」
わーわーっと公園の入り口の方から、みんなの声が聞こえる。
空太達だ。
「あ、わわ! ごめんね!」
麻那人に抱きついていた事に気付いて、光は離れた。
「謝ることじゃないよ」
恥ずかしくなった光に、麻那人はいつも通りに微笑む。
そして、悪魔王子の身体はまた人間の姿に戻っていく。
「まだいるつもりだよ? 僕は」
「い、い、いるって……じゃあ」
「魔界へはまだ帰らない」
「光ー! 麻那人ー!」
みんなの声が聞こえる。
「こんなちょっとで終わるわけないじゃない? まだドライカレーも食べてないしスープカレーも食べていないし五年生はこれから宿泊学習があるんだよね? 遠足もあるって……それなのに帰るわけないよ。ここにいるよ」
『ここにいる』という言葉が光の心に沁みる。
「え……じゃあ」
「ファルゴンの勘違いさ」
「えええーーー!!」
「ありがとう、嬉しいよ光」
ふふ、っと麻那人は笑って、光はカーっと顔が熱くなる。
でも、麻那人は光をからかうことはしなかった。
まず麻那人が立ち上がって、手を差し出してくれて光もその手につかまって立ち上がる。
「まだまだ楽しいことがいっぱいだよね!」
「……うん!」
麻那人が笑って、光も笑う。
心のなかに寂しさはもうない。
嬉しさでいっぱいだ!
「光ー! 麻那人ー!」
魔術クラブのみんなも笑顔で走ってくる。
「みんなー!!」
「作戦大成功! 勝ったよ!」
全員で抱き合って、やったー! と裏山で飛び跳ねた。
追いかけ鬼もザボもいなくなった。
魔術クラブの完全勝利!
作戦大成功!!
パタパタと上空を飛んで、ファルゴンはザボの入った瓶を持ってまた魔界へと行った。
新月の暗い夜は、終わる――。



