なにやら汗の臭いを抑えるスプレーの花の香りがして、光の居場所がわからないようだ。

 しかし四階の廊下の先に、女の子の姿が見える。
 大きな目でギョロリと見て、鬼は見定めた。

 暗闇にボオッと映ったのは、間違いなく光の姿だ!

『まずはぁあお前をくうっでからだぁあああ!!』

 やはり少し滲み出てしまう、みんなの恐怖を食って、更に追いかけ鬼は凶暴になっていく。
 力を増して、言葉もしっかりわかるようになってきた。

 ザボは、追いかけ鬼で、まず食べるのは光だとやっぱり決めているようだ。
 陰湿でしつこい悪魔には、そういうタイプが多い。
 
「きゃあああああ! いやぁ! 食べないでぇえ!!」

 光の叫び声に、追いかけ鬼はニヤッと笑う。
 ザボも笑ったに違いない。

『いだだきまぁああああす!!』

 飛び散る血!

 と思ったが、追いかけ鬼の口の中にあるのは……紙!!

 ビリビリに破けた紙だ!

 『なんだとぉ……!?』
 
 遠目で光だと思った姿は、ルルが大きな紙に描いた絵だったのだ!

 そこに光はイヤイヤながら、自分の汗をベタベタと染み込ませた。

 更に怒りに燃えた追いかけ鬼は、その先に立っているルルを見つける。

 光の悲鳴は、ルルのバッジから聞こえた演技だ!

『じくしょぉおおおおおおお! もう誰でもいいわぁ!! 喰ってやるぞぉ!!』

「きゃあああ!」

 さすがに追いかけ鬼に大口を開けて襲われそうになり、ルルは叫んだ。
 しかし追いかけ鬼は襲いかかろうとした瞬間に、動きが止まる。

「……ステイの魔法陣! ステイ!!」
 
 ルルが叫んだ。
 スライム調教用に麻那人が用意した『ステイの魔法陣』の再利用。

 数秒だけ『待て』の効果が現れる!

『こんなものぉ! すぐに解除されるぞぉおお!』
 
 グギギギギと今にも動き出そうとした、その時!

 暗闇に閃光が走る!
 カメラのフラッシュだ!
 
「よくも私を襲ったわね! フラッシュ攻撃! あんたをイケメンに撮影するのは無理だけどね!!」

 夜に闇にまぎれた悪魔にとって、眩しい光は毒の光。