メルティ・エモーション




ふうん、と軽く納得した灰慈くんは「それが駄目なことなの?」と、わたしに疑問を届けた。だめ、と言われると、せっかく落ち着かせ、凪いだ気持ちに波紋が生まれる。

「駄目じゃないけれど、良くないよ。普通が良いよね」

うん。17歳の久遠寺ふみは、普通の恋愛を目指すのだ。

「じゃあ、ふみの言う普通って何」

畳み掛けられ、波紋が大きくなった。

ゆらゆら、ゆらゆら、シャボン玉が漂うように疑問が浮かぶけれど、脳内でりるちゃんが『灰慈くんのために』と、魔法の言葉を囁く。

「普通は普通だよ。灰慈くんは大人だから分かるでしょ?わたしは灰慈くんの普通を目指すよ」

シャボン玉は直ぐに弾けて消えた。

「俺の普通をふみは知ってるの?」

灰慈くんの琥珀色が静かに、妖艶にわたしを映す。

灰慈くんの、普通……。

ぞくりとした。その表情は1ミリも笑っていない。

好きな人の、知らない顔。

「(……わかんないや)」

灰慈くんの言葉が知らない国の言葉になったみたいだ。
わたしの毎日は変わらないはずなのに、神様がわたしの難易度を上げちゃったのかな?と、悲しくなってしまう。

すん、と目を伏せていると、なんの予告もなく小鼻をむぎゅうと摘まれて、世界の小さな異変に驚いた。

「……!?」

「まあいいや。普通、頑張ってね」

「うん、頑張る!」

どうやら灰慈くんは賛成らしいので、わたしは頑張ることにした。幼なじみを昇格させて恋人になりたいからだ。