「いま、何か言いかけた?」
しかし、灰慈くんはどうやら聞き逃してくれなかったらしい。普段ぼんやりしている灰慈くんだけど、抜け目ないところがある。そういう時も好きだ。
「今日友達に、“ 普通 ”の恋愛した方がいいって言われたの」
わたしは自分の恋心にひどく弱いので、正直に口を割った。
「普通 ?」
「うん。普通。わたしなりに“ 普通 ”を考えて、“ 普通 ”は好きとか結婚したいとか言わないのかなって。迷惑とか気持ちを無視して、自分の気持ちを押し付けるのは、灰慈くん、嫌なのかなって思ったの」
「例えば?」
「例えば、" このケーキ、美味しいからたべてみて "って言われても、人参入りのケーキだったら、人参嫌いな人は嫌じゃん?迷惑なだけじゃん?だからこれからは灰慈くんのこと口説くのやめよって思ったんだけど、つい。ごめんね、きにしないで」
「ああ、そういう訳か」
「そういう訳。好き好き言っちゃうと、灰慈くん、嫌かなって。ほら、重い女って良くないよね」
わかんないけど。は、心の中で付け足した。
だって、あたしの好きは常に灰慈くんだから、灰慈くんに向けられる感情だから。
そう考えると平均も何も、十年分の超特大のヘビーな“好き“を毎回プレゼントすることになってしまうけれど、それも重い女、に集約されるのかな?
え……まさか、それも良くない!?
萎んだ疑問がふたたび膨らんでいく。今度は疑問と一緒にモヤモヤもやってきてしまって、考えることをやめようとする。
大好きな人のことなのに。



