その行動に不可解を感じ取ったのか「どうかした?」と高い位置から心配する声が落っこちて、あやうく「あのね」を言いかけて「どうもしてないよ」と、平然を演じた。わたしの祖母は女優の娘だ。お兄ちゃんにすべて吸い取られてしまったかもしれないけれど、おそらくわたしにもその稀有な血が流れている。
灰慈くんはしばらくの沈黙の後「そう」とわたしの演技に納得し、表情をやわらかくさせた。
「ふみ、俺とごはん行こうか」
ごはん……?
え、灰慈くん、晩御飯食べてきたのでは?
いやでも、寝る前だとしても、ミートドリアなら胃に落とせる。
「行くって言っても公園だけど。ご飯というよりアイスだけど。コンビニで買って、食べよ」
胃の容量を確認していれば、許容範囲内なのでなんの問題はなかった。
ママに灰慈くんとコンビニへ行くと言えば、代わりにパパが「駄目!門限!」と即答した。しかし「ちゃんと送ってもらうんだよ」と、ママはゴーサインをくれるので「早めに戻るね」を返事にして家を出た。
灰慈くんは、わたしの大好きな、クッキークリームのアイスを奢ってくれた。好きだ。公園のベンチに座ると、冷えそうだからとスーツのジャケットをわたしの肩に掛けてくれた。大好きだ。
たった数分の出来事に、数え切れないほどの好きが溢れてしまうのを、わたしは何度我慢しただろう。
「灰慈くんはアイスを食べる為に家に来てくれたんだね」
「惜しい」
「惜しいの?」
首をかしげると、横顔の灰慈くんと目が合いいたずらな笑顔がわたしを迎える。
「ふみと一緒に食べるためだよ」
雪平灰慈、おそるべし。
こんな人にわたしは立ち向かえるのか、立ち向かったとしても、彼は果たしてわたしのことを好きになってくれるのだろうか。



