メルティ・エモーション


出雲さんであれば顔も見た事があるし、彼女もいるし、安全だなって思ったけれど、現実はそうわたしに甘くない。

「そっか、いいなあ」

しかし理想のひとつだ。憧れとも言う。わたしも、なんのためらいなく灰慈くんをご飯に誘って、一緒の時間を過ごしたい。

「あんまり楽しくないよ」

けれども、灰慈くんはわたしの理想に否定的だ。

「楽しくないの?」

「うん。もし楽しかったら、まだ帰ってない」

「そうなの?うーん、よくわかんない」

だったらなんで、同期さんとご飯を食べに行ったんだろう。
わたしにとって、灰慈くんの世界は未知で、理解が追いつかない部分が多い。

首をかしげるわたしを見て、まるで甘やかすように灰慈くんはやわらかく微笑む。

「ふみと会う方が楽しいから帰った。これでわかる?」

快刀乱麻とはこのことだ。

「すごく分かりやすいです!」

灰慈くんがわたしに勉強を教えてくれたら、どんな難問でもすぐに解決に導いてくれるのではないか。

今日は灰慈くんのおかげで、とっても良い夢が見れそうだ。

「ありがとう灰慈くん、だ……」

いすき、と言いかけて、口説き禁止条例が頭に過り、告白をぱくんと飲み込んだ。