玄関の扉を開け、そうっと覗く。家の外壁に寄りかかる後ろ姿に向かって、蚊の鳴くような声で「灰慈くん?」と名前を紡げば、灰慈くんが振り向く。ふわふわで栗色の髪の毛。琥珀に似た紅茶色のまなざし。二重の瞳を守る長いまつ毛。はためくその様は憂いげで、儚いその瞳に見つめられるだけでわたしの心臓はがらくたな音を鳴らす。
「どうしたの?なにか用事?」
「用もなく来たら駄目?」
「ううん、全然!灰慈くんだったら365日、24時間いつでもお待ちしてます!」
「はは、俺専用かよ」
「もちろん!」
嬉しさのあまり自信いっぱいに言うと、灰慈くんはしばらくわたしを見つめ、それから「かわいいかわいい」と言いながら頭を撫でてくれた。一日の終わりに平和と幸福がもたらされる。
「灰慈くんは今仕事終わり?」
「ん。同期に飯連れてかれて、さっきやっと解散」
与えられた情報をもとに、正解を探し出す。
「えっと、出雲さん?」
灰慈くんは無駄なことが嫌いだ。必要なことだけわたしに教える。中でも交友関係について教えられたことはかなり少なくて、その内の一人の名を挙げた。予想というよりも、願望に近い。
「出雲じゃなくて、別の同期」
しかし、違ったらしい。



