ぼくらは群青を探している

「んで……九十三が言ってた、俺らが助けたカツアゲってのは、荒神がサッカー部の先輩共にやられてたヤツ。俺らが手出したせいで、荒神は『バックに蛍がいる』って言われてる」


 ……そういえば、赤倉庫で新庄の手下が荒神くんを縛るときに何か話していた、〝例の荒神だというのなら〟もっと強く縛ったほうがいいとかなんとか……。あれは荒神くんが蛍さんと繋がっていることを恐れていたのか……。

 そう考えると、赤倉庫の新庄グループは間違いなく蛍さんを警戒していた。その側面からも、蛍さんの話の信憑性は高かった。


「俺らは別に荒神を守るつもりはないし、群青に入れる気もない。程度がどうだろうが、便乗して他人虐める弱いヤツなんざ群青には要らねーんだ。ただ、俺らがバックについてるって言われて得してんのは間違いないから、お前はお前で出すもん出せって言ってる」

「……それがパシリ?」

「そう。……もっと言えば、お前の情報だ、三国」


 ス、ストーカー……? なんて反応はお似合いであるはずなのに、蛍さんの真剣な顔と声のせいで惚けているようにしか聞こえないだろう。なんと反応するべきか分からず、仕方なく首を傾げた。なんだか私は首を傾げてばかりだ。


「……ノートを拾っただけの私の情報なんて、いくら知ったって、仕方がなくないですか」


 ノートを拾う、たったそれだけの行為が蛍さんにとって──豊池さんにとってどれだけ価値があったのか、話を聞いている限りでは私が考える価値よりもずっと高いのだろうけれど、だからといって、仮に私に何かを返そうとしたとして、そこまでして私のことを知る必要はないのでは?

 そんな疑問をみなまで口に出さずとも、蛍さんは答えをくれるのだろう。苦々し気な表情が、答えを口に出そうと苦悩しているサインだった。


「……二択を迫っといてなんだが、俺はお前に、群青には入ってほしくなかった」


 そしてその答えは、ちょっとだけ寂しかった。


「……どうして、ですか」

「……お前が女だからだよ」

「……女子だと弱くて頼りないですか」

「……新庄にも黒烏にも襲われてんだろ。俺は──うちの妹の世話をしたお前を、そういう危ない目には遭わせたくなかった」


 ……蛍さんが、私を大事にしてくれていると感じたのは、間違ってはいなかった。


「……でも、私が男だったら群青に相応しかったのにって言ってましたよね」

「……お前がばあさんと二人暮らしなのも、荒神から聞いてたからな」


 ……そっか、別に隠してることじゃないし、中学の参観日でいつもおばあちゃんが来ていれば分かるかな。


「……俺らより下の群青は、みんなワケアリだよ」


 そんなことは、群青のOBを騙った二人組も言っていた。


「俺は父親から散々殴られて育って、やっと離婚したと思ったら再婚されて、なんとなく居心地悪くて、外で悪さやってる間に妹が虐められて引きこもり。……九十三だの芳喜だの、他人のことを話すのは趣味じゃねーけど、雲雀と桜井のことはお前だって知ってんだろ」

「……まあ」

「……今の群青は、居場所ないヤツらで集まってんだよ」


 能勢さんが青海神社を「部室みたいなもんでしょ」と話していたことを思い出した。部室という単語に結びついているイメージなんてないけれど、もしかして能勢さんも、居場所というイメージを抱いているのだろうか。

 なんとなく暇を持て余したときに行くところ、用事がなくてものんびりと座っていていいところ、行けば誰かがいるところ──そんなイメージを。