ぼくらは群青を探している

「てか三国ちゃんってラブホとか知らなかったんだよね? よくそういう生き方してきたよね?」

「……むしろどういうタイミングで知るものなんですか?」

「それは三国ちゃんが知ったタイミングを思い出してみれば分かるんじゃない?」


 ……美人局を嵌めるために行く、と? 怪訝な顔をしてしまったけれど、中津くんの一件は、雲雀くんによる箝口令(かんこうれい)が敷かれたことで、群青では私、桜井くん、雲雀くん、中津くん、能勢さんそして蛍さん以外の人は詳しいことを知らないのだろう。中津くんにとって雲雀くんによる脅迫がどれほど恐ろしいものだったのかよく分かった。ついでに、女装の都合で胡桃も事情を知ってはいるけれど、雲雀くんの女装だのなんだのの噂は全く流れていないので、ちゃんと黙ってくれているらしい。そこは雲雀くんも好感度を回復させてあげてもいいところかもしれない。

 それはさておき、妙なことに気が付いた。知るタイミングは利用するタイミング以外にないとすれば……。


「……九十三先輩って……その、彼女とか……いらっしゃいましたっけ……?」

「えー、今はいないよー。雲雀とやめて俺と付き合う? 俺結構優しいよ」

「……前にいたのって……いつくらい……?」

「中学のときだけど、高校に入ったら群青にいたからさ、彼女作る暇なかっただけでモテないわけじゃないんだよな」

「中学…………」

「三国お前何の話してんだ」

「……いえなんでも……」


 九十三先輩が質問の意図を理解したかどうかは別として、興味本位で踏み込むべきではない……。蛍さんは間違いなく察知して私を諫めたので、ここは些細な好奇心には蓋をすることにしておこう……。


「んで、三国」


 紅鳶神社の石階段の下にはバイクが三台並んでいた。手前のものに見覚えがあると思っていたら案の定蛍さんので、ポイッとヘルメットを放り投げられた。蛍さんは軽々しく放るけど、両手で抱えたそれは機能性のとおりズシリと重たい。


「送ってやるよ。家どこだ」

「……藍海区の、古戸(ふると)二丁目です……。……蛍さん、全然方向違うんじゃ」


 蛍さんの家の場所は全然知らないけれど、南中学だと知っていれば範囲の予想はつく。私の家までとなると遠回りどころでなく、本当にただ私を送る用事を済ませるだけになる。


「九十三のほうが真逆。俺ん()、校区的には東中と間だからな」

「……あ、そういえば」


 蛍さんは南中学なのに豊池さんは東中学にいたわけだし。しかも蛍さんの口ぶりからすれば蛍さんと豊池さんは同じ家に住んでいるはずだ。気づいた私に「ああ、俺がこんなだし、南中ってヤンキー多いだろ。妹は嫌がってな、東中にしたんだよ」と回答がきた。

 もし、そこで豊池さんが南中学を選んでいたら、蛍さんの妹として、虐められることはなかったのではないのだろうか。


「ま、南中に来たら来たで、俺が卒業した後に虐められてたかもしれねーし。過ぎたこと言ったって仕方ねーよ」


 まるで私の思考を読んだかのような返事だった。きっと私の表情の変化で私が察知した事実に気付いたのだろうから、思考を読んだと言ってもそう過言ではなかった。


「んじゃ、おつかれさんでした」

「ばいばーい」