ぼくらは群青を探している

 ……そうか、その程度の認識か……。それはそれで話がややこしくなくていい。常盤先輩は私を何度かバイト先で見ていたことがあったけれど、豊池さんの話は知らなかったから、集会やらなにやらで私を見て初めて「三国英凜」と認識した、と。


「てかこのタイミングだから聞いときたかったんだけどさ、なんで永人って三国ちゃん群青に入れたの?」


 九十三先輩による暴露話に、蛍さんはもう異を唱えなかった。ちなみに九十三先輩の腕はやっと私の肩から外れた。


「……三国が桜井達とつるんでてどうしようもなかったからに決まってんだろ。つかその話したろ」

「だーからさ、そこまでする? ってみんな思ってたと思うんだよね? 永人の妹が喜んでたのはいいよ、んで永人が三国ちゃんに借りがあんのもまあいいよ、で? だからって群青に入れるのはよく分かんなくね? そんなに気に入ったんならとっとと告ってカノジョにすりゃいいじゃん? って」


 群青に入れるのと彼女にするのと、どちらがいいか? 確かに新庄も群青メンバーに女子がいるなんて聞いたことがないと指摘していたとおり、きっと先輩達にとっても前代未聞だったろう。その意味では──あたかも蛍さんが告白すれば必ず付き合えるかのような口ぶりなのはともかくとして──もっともな疑問ではあった。


「でも、蛍さんだって彼女を選ぶ自由があるわけですし、ちょっと借りがあるからって──しかもあってないようなものですし、そんなことでみすみす彼女の座を与えるのはコスパが悪いですよね。私はそこはあまり疑問はないです」

「ごめん何言ってんのかよく分かんなかった、もう一回分かりやすく言って」

「……彼女にすると彼氏の義務が発生して面倒くさそうじゃないですか?」

「もっと分かりにくくなった、三国ちゃんもう黙っといて」


 ガーン……と項垂(うなだ)れてしまったものの、自分の推論が間違っていることに気付いた。新庄によれば、蛍さん達が一年生のとき、群青には姫がいて、その姫のせいでなにか事件が起こった。群青メンバーにするか姫にするかを選ばされたとき、その歴史に学べば答えはひとつに違いない。


「二年前、群青の姫になんかあったの?」


 桜井くんの声に重苦しさはなく、胡坐をかいたまま足首を持ってゆらゆらと揺れているとおり、その態度も軽かった。

 それでも、軽薄が売りといっても過言ではないくらいお喋りな九十三先輩が黙り込んだ。常盤先輩は知らないのか、私達に向けて肩を竦めるだけだった。蛍さんは──……だんまりだったけれど、もともとこの話が始まってから口数が少なかったからそれ自体から何かを判断することはできなかった。


「……さあな。俺らも一年のときの話だし。そろそろ帰っか」

「……永人さーん、話終わってなーい」

「終わった。常盤が送ってやるから帰れ」


 蛍さんは縁側から飛び降り、セリフのとおり会話を強制終了させてしまった。常盤先輩はきっと当時の話を知らないのだろう、肩を竦めて「桜井、家どこだっけ」と従順に蛍さんに従うし、先輩がそんな態度なので桜井くんも「ギリ北区。北山駅よりもうちょい西」と早々にその情報は諦めた。


「んじゃ、俺が三国ちゃん送ったげよっか」

「いや、三国は俺が送る」


 ぱちくりと瞬きする私を、歩き出した蛍さんは振り向きもしなかった。九十三先輩が「そんなこと言ってラブホ街連れ込まない? よくないよーそういうの」と軽口を叩いても無視だった。