ぼくらは群青を探している

 蛍さんはトートバッグを拾い上げて「……浴衣。お前なあ、三国」とすぐに察知して声を荒げる。だから黙って来たのに……。


「……何もしないっていうのも……」

「雲雀がお前を助けてやった意味がなくなるって言ったよな? お前感性死んでんのか?」

「それは死んでるらしいですけど……」

「なに?」

「いえなんでも……」

「んで、なんで桜井なんだ。雲雀に断られたから桜井に頼んだのか? お前もんな馬鹿げたお願い聞いてんじゃねえ」

「違いますって! 英凜とは中央駅でたまたま会ったの! 普通にラブホ街とかあるとこ迷い込んだら危ないし、英凜が怪しい行動してたからついてきたの!」

「……私、そんなに怪しかった?」

「すげー俺に帰ってほしそうだったし、つか紅鳶神社方面に用事あるわけないし」

「んでなんでお前三国襲ってんの」

「違う、襲ってないです。英凜が……」


 勢いよく首を横に振っていた桜井くんは、そこでやっと失速した。膝の上で両手の拳を握りしめ、拗ねたように少し目を逸らす。


「……新庄に襲われたの黙ってたから、ちょっと怒った」


 ……だから、なんでそれで怒られるのかが分からない。でも思い返してみれば、雲雀くんも何で言わなかったんだと怒っていた。……いや、怒ってるわけじゃないとは言っていたけれど、どう見たって怒った表情と口調だった。

 でも、それを聞いた蛍さんは口を(つぐ)んでいるから、きっと桜井くんが怒ったことはおかしいことではないのだろう。どこか仕方がなさそうに口角を歪ませて微妙な表情をしていた。


「……赤倉庫の件な。まあ今更って感じはあるが……」

「……それより、蛍さんが新庄と会ってた理由はなんなんですか?」


 蛍さんは顔色を変えなかった。当然だ、デジカメの音が聞こえていたということは、私達が最初から会話を聞いていたことは明白なんだから。ただ私達どちらの目も直視せずに、何度か(まばた)きをしながら明後日の方向を向く。


「……アイツ、群青に入りたがっててな。ちょいちょいラブコール送ってくんだよ、今日もそれだ」

「……最初は群青に入りたがってたけど、今はもう興味はない……ですよね、新庄に言わせれば。その最初──新庄が初めて群青に入りたいって言って蛍さんに会ったのはいつなんですか?」


 蛍さんはどこか不機嫌そうに口端を下げていた。いや、不機嫌そうというか、バツが悪そうというか、聞かれたくない話を聞かれてしまって、言い訳のしようもなくていたたまれないような、そんな表情だった。


「てかアイツが群青に入りたがってたとか初耳なんですけど。赤倉庫のときはもう深緋にいたじゃん?」


 お説教は終わったと判断したのか、桜井くんは正座をやめて胡坐をかいた。パラパラとそのズボンから小石が落ちる。


「あれより前から群青に入りたがってたってこと?」

「……まあ、そうだな」


 ふー、と息を吐き、蛍さんは私から少し離れたところに座り込んで胡坐をかいた。地面に座っているのは桜井くんだけになったけれど、横一列に並ぶよりも三角形に座っているほうが話しやすいからか、桜井くんが縁側に上ることはなかった。


「……確かゴールデンウィークよりは後だったな。新庄が群青に入りたいつって俺に会いに来た」

「……群青に灰桜高校の生徒以外っていませんよね? だから入れなかったんですか?」

「別に灰桜高校以外の人間拒否ってるわけじゃねーよ、たまたまだ。新庄はコイツ有名なゲスだよなあと思ったから拒否った」