「俺は心配してんだよ! 英凜を! 分かっていい加減!」
ぱちくりと目を瞬かせてしまったけれど、そう叫んだ桜井くんがいつもの桜井くんに戻っていたので、ほっとして気が緩んだ。
「……俺、真面目に話してんだよ」
きっとその緩みは私の表情に出たのだろう。それなりの剣幕だった桜井くんは、まだ怒っているかのような拗ねているかのような、そんな微妙な表情に変わった。……私にはその判別がつかなかった。
「……分かってる、分かってるよ」
「……本当に分かった?」
放り出すような乱暴な声は、それでもやっぱり普段の桜井くんとは少し違った。
「ラブホのときも言ってたじゃん、分かったって。んでこれじゃん」
「……だからこれは一人でやろうとしたことだし……、その、雲雀くんにも頼むのは悪いなって分かってたし……」
「悪いってことは分かってたの?」
「まあ……。だって、その、多少なりと私だって浴衣をはだけさせなきゃいけないし、そうなると彼氏じゃない人に頼むわけにはいかないし。でも雲雀くんは彼氏っていってもちょっと特殊な間柄だし……。雲雀くんも、雲雀くん以外には頼めないって分かるだろうから、利用するのは悪いかなって……」
「……だから、そういうことじゃないんだよ」
一体どう説明すればいいだろうか、きっとそう考えているに違いなかった。でもやっぱり、私にはよく分からない。
「……例えば英凜は、英凜が新庄に拉致されて、侑生がそれにつられて呼び出されて、侑生が新庄にぶち殺されるか英凜がレイプされるか選べって言ったらレイプされんでしょ」
「……新庄がそれで雲雀くんを逃してくれるわけがないから、そんな条件は呑めないけど」
「質問に答えて」
まるで詰問するような口調に、膝を抱えたまま首を竦ませた。質問に答えていないつもりはなかったけれど、言われてみればそのとおりだ。
「……雲雀くんが逃げられるなら、それで」
「そういうとこだよ。そんなことで助かっても侑生は喜ばないよ。つか下手し侑生が新庄殺しに行って終わる、冗談抜きで殺すと思う」
……その推測はきっと正しい。自動販売機の前で雲雀くんが現に告白していたことだ。だからその推測を肯定することは、きっと自意識過剰でもなんでもない。
「英凜は、自分だけ不幸になって自分だけ我慢すればそれで済むって思ってるかもしれないけど、間違ってるよ。英凜がそういう我慢すんのを見るほうが耐えらんないんだよ」
……そんなことをそんな風に言われたって、分からないものは分からない。私には理解できないんだから、仕方がない。
だから、こういう話は分かったふりをして頷いて終わらせるのが一番いい。桜井くんには悪いけど、口先だけでも返事をしておこうと口を開こうとしたとき──トンと肩に重みが載せられた。
「……こんなこと、俺が言ったって英凜には響かないんだろうけどさ」
その瞬間にまるで世界が止まったかのような心地がした。
くしゃくしゃでふわふわの金髪が顔のラインに触れる。ざあっと風が吹けば、自分の髪が桜井くんの髪にもつれる。
桜井くんの髪が私の頬に触れているのか、私の頬が桜井くんの髪に触れているのか分からなかった。肩に載っている頭には、初めて知る重みと温かみがあった。
ぱちくりと目を瞬かせてしまったけれど、そう叫んだ桜井くんがいつもの桜井くんに戻っていたので、ほっとして気が緩んだ。
「……俺、真面目に話してんだよ」
きっとその緩みは私の表情に出たのだろう。それなりの剣幕だった桜井くんは、まだ怒っているかのような拗ねているかのような、そんな微妙な表情に変わった。……私にはその判別がつかなかった。
「……分かってる、分かってるよ」
「……本当に分かった?」
放り出すような乱暴な声は、それでもやっぱり普段の桜井くんとは少し違った。
「ラブホのときも言ってたじゃん、分かったって。んでこれじゃん」
「……だからこれは一人でやろうとしたことだし……、その、雲雀くんにも頼むのは悪いなって分かってたし……」
「悪いってことは分かってたの?」
「まあ……。だって、その、多少なりと私だって浴衣をはだけさせなきゃいけないし、そうなると彼氏じゃない人に頼むわけにはいかないし。でも雲雀くんは彼氏っていってもちょっと特殊な間柄だし……。雲雀くんも、雲雀くん以外には頼めないって分かるだろうから、利用するのは悪いかなって……」
「……だから、そういうことじゃないんだよ」
一体どう説明すればいいだろうか、きっとそう考えているに違いなかった。でもやっぱり、私にはよく分からない。
「……例えば英凜は、英凜が新庄に拉致されて、侑生がそれにつられて呼び出されて、侑生が新庄にぶち殺されるか英凜がレイプされるか選べって言ったらレイプされんでしょ」
「……新庄がそれで雲雀くんを逃してくれるわけがないから、そんな条件は呑めないけど」
「質問に答えて」
まるで詰問するような口調に、膝を抱えたまま首を竦ませた。質問に答えていないつもりはなかったけれど、言われてみればそのとおりだ。
「……雲雀くんが逃げられるなら、それで」
「そういうとこだよ。そんなことで助かっても侑生は喜ばないよ。つか下手し侑生が新庄殺しに行って終わる、冗談抜きで殺すと思う」
……その推測はきっと正しい。自動販売機の前で雲雀くんが現に告白していたことだ。だからその推測を肯定することは、きっと自意識過剰でもなんでもない。
「英凜は、自分だけ不幸になって自分だけ我慢すればそれで済むって思ってるかもしれないけど、間違ってるよ。英凜がそういう我慢すんのを見るほうが耐えらんないんだよ」
……そんなことをそんな風に言われたって、分からないものは分からない。私には理解できないんだから、仕方がない。
だから、こういう話は分かったふりをして頷いて終わらせるのが一番いい。桜井くんには悪いけど、口先だけでも返事をしておこうと口を開こうとしたとき──トンと肩に重みが載せられた。
「……こんなこと、俺が言ったって英凜には響かないんだろうけどさ」
その瞬間にまるで世界が止まったかのような心地がした。
くしゃくしゃでふわふわの金髪が顔のラインに触れる。ざあっと風が吹けば、自分の髪が桜井くんの髪にもつれる。
桜井くんの髪が私の頬に触れているのか、私の頬が桜井くんの髪に触れているのか分からなかった。肩に載っている頭には、初めて知る重みと温かみがあった。



