間抜けにへたりこんだ私の前に屈みこんで、トートバッグの口を開く。やっぱり中央駅で出くわしたときから見透かしていたのだろう、桜井くんは驚いた顔はしなかった。
「SDカードが死んでるなら、証拠を新しく作ろうってことだよね。颯人を美人局から助けるときもやったもんね、事実があっても証拠がないなら作ればいい。あの日の写真を撮るには明るすぎるけど、中学の情報の授業で写真の加工とかやったし、暗くなるように加工もできるのかな。英凜、そういうの得意そうだし」
そして、浴衣の下に入っているデジカメを引っ張り出す。ピロリン、と音がしてデジカメが起動し、格納されていたレンズがジィーと出てくる。
「もしかして、テレビで見るみたいに、後から男の手を合成することもできる? それなら英凜一人で撮れるもんね」
まるで撮影する準備でもするように、桜井くんはデジカメの液晶に視線を遣った。でもすぐに興味を失ったようにパッと手を離し、腕を通したストラップで揺らす。そのままぐるんと勢いよく回転させる。
たったそれだけの、オモチャで遊ぶような仕草をする桜井くんの姿がいやに不気味に見えた。
「いいよ、英凜一人なんて言わないで、俺が協力してあげよっか」
「え……」
「浴衣に着替えさせて、そこに押し倒して、いい角度で撮ってあげよっか。俺の手を映せば加工しなきゃいけないのは明るさだけだよ」
砂のついた手がガタガタと震えている。桜井くんは不気味な笑みを浮かべている。
「大体、ケータイよりマシって言ったって、デジカメで自分で自分を撮るなんて一人じゃ無理だよ。それに表情はどうする? 襲われたとき泣いてた? 真っ赤になってた? 役者でもないのに五秒で泣いて赤面できる? でも俺が押し倒せば怖くて泣けるんじゃない? 恥ずかしくて赤くなるんじゃない?」
「いたっ」
腕が払われ、ドタッとそのまま背中から地面に寝転んでしまった。間抜けに放り出されていた腕が万歳させられてそのまま地面に押し付けられる。肌に石と砂利が食い込んで、打った背中以外の箇所もじりじりとした痛みに襲われる。
でも、その痛みが一瞬で思考の外に消えるほど、私を見下ろす桜井くんが不気味だった。もう笑みさえ浮かべていない。冷ややかとさえ言える無表情だった。
そんな桜井くんに押さえつけられた手首がびくとも動かない。まるで地面に縫い留められたみたいだ。それでもって、まるで大人と赤子のような力の差。
夏祭りのあの二人組と同じだった。絶対に敵うはずのない、まさしく私を簡単に圧倒する力の差を身をもって教えてきた、あの二人組と同じ。
「……ねえ、英凜、侑生にこの話した?」
その桜井くんの声が、少しだけ寂しそうに聞こえた。地面の上で首を横に振れば、砂利が髪に絡まる感触がした。
「だよね。侑生がいいよ、やってきなって言うはずないよね。その意味が分かってんの、英凜」
「…………」声を出そうとしたけれど、一瞬喉が閉塞していて何も音が出せず、唾を呑みこもうとしたけれどその方法を忘れてしまって、慌ててゴクンと空気を呑みこんで「……その意味って」やっと声が出た。
「……英凜が自分の恥ずかしーい写真をわざわざ作るなんて、侑生がいいよって言うはずないよね。なんでか分かる?」
「……リスクに対してリターンを見込める可能性が低いから?」
「…………」
はあー、と桜井くんは視線をそっぽへ向けて溜息を吐いた。まるで匙でも投げたような態度だった。
「SDカードが死んでるなら、証拠を新しく作ろうってことだよね。颯人を美人局から助けるときもやったもんね、事実があっても証拠がないなら作ればいい。あの日の写真を撮るには明るすぎるけど、中学の情報の授業で写真の加工とかやったし、暗くなるように加工もできるのかな。英凜、そういうの得意そうだし」
そして、浴衣の下に入っているデジカメを引っ張り出す。ピロリン、と音がしてデジカメが起動し、格納されていたレンズがジィーと出てくる。
「もしかして、テレビで見るみたいに、後から男の手を合成することもできる? それなら英凜一人で撮れるもんね」
まるで撮影する準備でもするように、桜井くんはデジカメの液晶に視線を遣った。でもすぐに興味を失ったようにパッと手を離し、腕を通したストラップで揺らす。そのままぐるんと勢いよく回転させる。
たったそれだけの、オモチャで遊ぶような仕草をする桜井くんの姿がいやに不気味に見えた。
「いいよ、英凜一人なんて言わないで、俺が協力してあげよっか」
「え……」
「浴衣に着替えさせて、そこに押し倒して、いい角度で撮ってあげよっか。俺の手を映せば加工しなきゃいけないのは明るさだけだよ」
砂のついた手がガタガタと震えている。桜井くんは不気味な笑みを浮かべている。
「大体、ケータイよりマシって言ったって、デジカメで自分で自分を撮るなんて一人じゃ無理だよ。それに表情はどうする? 襲われたとき泣いてた? 真っ赤になってた? 役者でもないのに五秒で泣いて赤面できる? でも俺が押し倒せば怖くて泣けるんじゃない? 恥ずかしくて赤くなるんじゃない?」
「いたっ」
腕が払われ、ドタッとそのまま背中から地面に寝転んでしまった。間抜けに放り出されていた腕が万歳させられてそのまま地面に押し付けられる。肌に石と砂利が食い込んで、打った背中以外の箇所もじりじりとした痛みに襲われる。
でも、その痛みが一瞬で思考の外に消えるほど、私を見下ろす桜井くんが不気味だった。もう笑みさえ浮かべていない。冷ややかとさえ言える無表情だった。
そんな桜井くんに押さえつけられた手首がびくとも動かない。まるで地面に縫い留められたみたいだ。それでもって、まるで大人と赤子のような力の差。
夏祭りのあの二人組と同じだった。絶対に敵うはずのない、まさしく私を簡単に圧倒する力の差を身をもって教えてきた、あの二人組と同じ。
「……ねえ、英凜、侑生にこの話した?」
その桜井くんの声が、少しだけ寂しそうに聞こえた。地面の上で首を横に振れば、砂利が髪に絡まる感触がした。
「だよね。侑生がいいよ、やってきなって言うはずないよね。その意味が分かってんの、英凜」
「…………」声を出そうとしたけれど、一瞬喉が閉塞していて何も音が出せず、唾を呑みこもうとしたけれどその方法を忘れてしまって、慌ててゴクンと空気を呑みこんで「……その意味って」やっと声が出た。
「……英凜が自分の恥ずかしーい写真をわざわざ作るなんて、侑生がいいよって言うはずないよね。なんでか分かる?」
「……リスクに対してリターンを見込める可能性が低いから?」
「…………」
はあー、と桜井くんは視線をそっぽへ向けて溜息を吐いた。まるで匙でも投げたような態度だった。



