ぼくらは群青を探している

 一ヶ月半ぶりの紅鳶神社は、夏に比べてどことなく鮮やかさを失っていた。空と草木のコントラストの問題なのかもしれないし、セミの鳴き声が聞こえない季節になってしまったからなのかもしれないし、ただ単に夏祭りのような活気がないからかもしれない。いずれにせよ、境内の広さと拝殿の綺麗さ以外は青海神社と大差ない、どこか(さび)れた雰囲気が漂っていた。


「夏祭りない間ってこんな廃神社なんだな」

「そこまでじゃないんじゃない……私も思ったけど」

「このへんあんま治安良くないもんなー」

「……群青が青海神社を占領してるみたいに、紅鳶神社もどこかのチームが占領してるの?」

「いや、今はどこも」


 ということは昔はどこかが占領していたのかな、と考える私に構わず、桜井くんはさくさくと足を進めながら「鳥居通越えたらラブホとか雀荘(じゃんそう)とか、そういう、なんだっけ……」「繁華街?」「そうそう。だから紅鳶神社で騒ぐとお巡りさんが来やすくて人気ないんだと思う」言われてみれば納得できるような理屈だった。


「てか、英凜」


 そしてぴたりと、社へ続く分かれ道で足を止める。危うくその背中にぶつかってしまいそうなほど急だった。


「な、なに」

「怖くないの? 男と二人であそこ行くの」


 そんなこと言ったって、桜井くんは別じゃん。桜井くんは私に何もしないじゃん。桜井くんは私を襲うことに得なんてないじゃん。それどころか、雲雀くん(しんゆう)の彼女じゃん、なおさら何もしないに決まってるじゃん。

 あまりにも今更な指摘だったのに、桜井くんの表情があまりにも真剣に見えたので混乱した。でも論理的に思考のほうが正しいから、それは私の読み間違いの可能性が高かった。


「……それは、夏祭りの次の日にも話してたけど、桜井くんと雲雀くんは安定と信頼だから」

「……でも――」桜井くんは何か納得してなさそうに続けようとして「……ま、いっか」肩を竦めてまた足を進める。私が後ろで首を傾げていることは分かっているはずなのに、振り向いて説明してくれる様子はなかった。

 ただ、桜井くんの指摘は確かに正しかった。社が目に入った瞬間、ドッと心臓が大きく跳ね上がった。


「SDカード……まー、見つかんないと思うよ。俺もどこで壊したか覚えてないし」


 ドックンドックンと心臓が揺れ始めた。脈打っているのではなく、怯えるように揺れている。


「てか、SDカード、俺は真っ二つにしたんだけど。英凜も、あれが復活しないことくらい分かってるよね」


 足が(すく)んで動けなかった。やっぱり、怖いんだ。いくら理屈で分かっていても、この場所は私にとってトラウマなんだ。昼夜が違っていたって関係ない、ただこの場所があれと同じ場所だと理解できるだけで、目の前の光景にあの日の写真を合成できる。なんなら、私が見たものそのものだけでなく、自分が襲われている様子を俯瞰(ふかん)して写真にできる。


「ねえ、英凜、聞いてる?」

「あ……うん、聞いて、る……」

「英凜、その荷物なに?」


 ドッ、と心臓が跳ね上がった。私を射抜く桜井くんの目が、私を弾劾しているように思えて怖くなった。

 桜井くんの手がトートバッグに伸びる。後ろに一歩下がって逃れようとして、膝がカクンと折れて、ズルッとそのまま地面に尻餅をついてしまった。桜井くんの運動神経があれば、転びそうになった私を抱き留めるくらい簡単だったはずなのに、桜井くんはまるで見放すように何もしてくれなかった。


「浴衣だよね」