ぼくらは群青を探している

 桜井くんは携帯電話を取り出し、私には視線もよこさずやっぱり生返事をした。


「……何かあったのかな」

「胡桃ちゃんが心配なんだろ。なんやかんや幼馴染みだしな」


 九十三先輩は取り合わず、今度こそカバンのチャックを閉める。


「芳喜ィ、お前は? 結局いかねーの?」

「やめときまーす」

「んじゃ俺らだけか。さくっと座れそうだな」


 蛍さんは大して気にする素振りも見せなかったけれど、つい気になって拝殿を振り返った。桜井くんは急に大人しくなって、胡桃が話すのに淡々と返事をしている。能勢さんはまだ拝殿の隅で煙草を吸っていた。


「三国、行くぞ」

「あ、うん……」


 本当に、胡桃を送ることが理由なのか? それはただの口実じゃないのか? そんなことは当然考えたけれど、桜井くんがそんな口先で適当な言い訳をできるとは思えなかった。雲雀くんの隣を歩きながら首を捻る。ただ、桜井くんがそんな口実を作って私達とご飯を食べることを拒否する理由は思い当たらなかった。

 先輩達もそれは同じらしく、定食屋でご飯を食べながら「なんでアイツ急に来ないの?」「俺が知るかよ。俺らが進学の話するから真面目に悩んだんじゃねーの」「アイツにそんな危機感アンテナないですよ」きっと外れた推測しかできていなかった。


「まあ三国、(レイブン・)(クロウ)のことは心配すんなよ」


 もし私の顔が心配して見えたのだとしたら、それは桜井くんの不可解な言動で表情を曇らせてしまっていたに過ぎなかったのだけれど、蛍さんはそう勘違いしたらしい。


「アイツらが言ってんのが無茶苦茶だってのも、お前がマジで襲われたんだってのも、俺らは分かってる。大体、お前自身は襲われただのなんだの喚かねーで黙ってただしょぼくれてんだ、本当に〝襲われたことにしたい〟んだったらもっと被害者面して喚いてんだろ」


 ……蛍さんの意見は、隙がないとまでは言わずともそれなりに論理的な意見ではあった。ただ、群青と(レイブン・)(クロウ)の関係に論理は必要ない。


「……それは、まあ、通らなくはない理屈ですけど、(レイブン・)(クロウ)にとってそういう理屈って価値があるものではありませんよね。六月の(スノウ・)(ホワイト)と違って、(レイブン・)(クロウ)は狡猾ぶっているわけじゃない」

「まあ百%(パー)話し合いはできねーだろうな。する気ねーけど」

「……でも、あの件のせいで先輩達が喧嘩をするのは……」


 何より、雲雀くんがやり玉に挙げられているのは釈然としないというか、申し訳ないというか、打開策を探したくなる。

 頭にはもう一度、桜井くんがSDカードを壊したときの光景が浮かんだ。あのSDカードが壊れていなければ、あのSDカードがまだ存在すれば……。いや、それこそ(スノウ・)(ホワイト)の時とは逆に、あの写真を捏造(ねつぞう)すれば──。

 その方策が頭に浮かんだ瞬間、ぶるっと背筋が震えた。……集会のときと同じだ。考えるだけでこの有様なのに、そんなことができるはずがない。……いや、逆に渾身(こんしん)の演技が可能かもしれないけれど……そんなこと、言い出せるはずがない。あんなところであんな風に組み敷かれたら、たとえ演技でも、たとえ相手が雲雀くんでも、無理だ。

 ……やっぱり写真が残っていることに賭けるしか。


「……その……私が襲われてるときの写真があったら、(レイブン・)(クロウ)の件ってなしになるんですか?」