ぼくらは群青を探している

「ねー三国ちゃん、こんなヤツ置いて俺とおしゃべりしよっか」


 そしてひょいと私の体が持ち上げられ「え!?」と素っ頓狂な声を上げるうちに拝殿の上に載せられた。何が起こったのか一瞬分からなかった。もしかして九十三先輩は私を持ち上げてここに載せた……? とんでもない怪力だ。そして九十三先輩はいそいそと私が座っていたところに座り込み、雲雀くんにじとりと睨まれる。


「何喋ろっかなあ。三国ちゃんの今日のパンツは水色?」

「……あ、そうですね」

「え、ヤバ当たっ──イッテェ! さすがにあぶねーだろ!」


 座ったばかりの九十三先輩は石階段から蹴り落された。九十三先輩がどこも怪我した様子がないのは、ひとえにその反射神経のお陰だろう、蛍さんと雲雀くんが前触れなく蹴ったにもかかわらず、九十三先輩はまるで猫のように身軽に着地していた。


「パンツの色を答える三国も悪いが、そもそもパンツの色を聞くお前が悪い。反省しろ」

「え……答えるのって悪いんですか……」

「答えなくていいって俺も言ったよな?」

「でも先輩の問いを無視するのは……」

「上下関係に対する意識は素晴らしい、がいつまで経っても敬語使えないこのバカと足して二で割れ」

「キャイン」


 桜井くんが軽く叩かれたのは飛び火としかいいようがなかった。その隣では胡桃が目を白黒させている。


「え……英凜、パンツの色聞かれてるの……? なに……?」

「あ、胡桃ちゃんには聞かないから安心していいいよー、セクハラだもんねー」


 私もセクハラでは……? 抗議すべきか悩んだけど九十三先輩のへらっとした笑顔を見ると無駄なのは分かりきっていた。


「ていうか英凜の下着の色なんて知っていいのは侑生だけじゃ……」

「知っていいわけねーだろぶん殴るぞ」

「なんで俺に拳を向けるんですか」

「てか飯食いに行かね。腹減った」

「お前がくだらねーこと聞いてるせいだろ!」


 怒られてもどこ吹く風で九十三先輩はカバンを拾い上げ、でもカバンのチャックが全開だったせいで「あーやべ」バサバサッと模試の紙が参道に散らばった。本当にこの先輩はどうしようもない。しかも狙いすましたように突風が吹いて「あー、やべ」バサバサッと問題用紙が飛んで行く。仕方なく飛んで行ったそれを拾いに行けば、九十三先輩の横で胡桃もプリント集めを手伝っていた。背後からは「牧落サンも三国も、ほっとけよ」と蛍さんの厳しい声が聞こえた。ちなみに桜井くんも雲雀くんも蛍さんも能勢さんも微動だにしなかった。


「はー、やっぱり女の子は優しいね。アイツら本当に冷たいよね、曲りなりにも先輩を蹴るし」

「九十三先輩って……いつもあんなに蹴られてるんですか……?」

「そうだよー。もっと俺に優しくするべきだよね」


 そうか、胡桃にとっては先輩達の暴力上等なコミュニケーションって本当にただの暴力でしかないんだな。納得しながら、自分がいつの間にかそのコミュニケーション方法に慣れ始めていることに気が付いて閉口した。


「ねーねー三国ちゃん、三国ちゃんって大学どこ行くの?」

「え? いえ別に、なにも決まってませんけど……」


 お兄ちゃんは「一人暮らしをしたいから」という理由で京都の大学を選んでいた。確かに東京の大学に行くと実家から通うことになるだろうけれど、それ自体には特に何の感情もない。確かに今更──大学生からと考えると六年ぶりに──実家で両親の庇護下に置かれるというのは複雑な気持ちはあるけど、今のところ、進学先を左右するほどの事情ではない。