ぼくらは群青を探している

「そう? 雲雀くん助けてあげたら?」


 ああ、そっか、雲雀くんは胡桃の傍にいるといつもイライラしてるから……。実際、顔を向けると、胡桃を囲んで喋っているのは先輩達と──桜井くんだけで、雲雀くんは頬杖をついて携帯電話をいじっていた。

 ……そっか、私、雲雀くんと付き合ってるんだもんな。一人でつまらなさそうにしている雲雀くんを見ながらそんなことを確認する。……確認しなければならなかった。

 ひょいひょいと近づいて雲雀くんの隣に座り込む。携帯電話の画面には数独が映っていて、そんなところまで桜井くんと仲良しなのかと笑ってしまいたくなった。


「……どうした三国」

「……どうもしない」

「そう」

「……私もやりたい」

「三国得意そうだな」

「雲雀くんも得意そう」

「普通だろ」


 喋っていると気が紛れる。能勢さんには雲雀くんを助けたらと言われたけど、助けてもらっているのは私だ。桜井くんと胡桃の声に耳を傾けながら雲雀くんとも喋るなんて器用なことは私にはできない。できなくてよかった。私が聖徳太子だったら聞かなくてもいいのに聞こうとしてしまっていた。


「三国ってゲームとかすんの」

「……わりと。お兄ちゃんがゲームしてたテレビゲームとか、昔はよく一緒にやってた」

「ああ、あの金髪の」

「本当に頭悪く見えるからやめたほうがいいと思うし、絶対お母さん達が見たら絶句してると思うんだけど……」

「マジで兄妹には見えないくらい似てねーよな」

「兄妹ってそんなもんじゃない? 雲雀くん似てるの?」

「……まあ、兄妹だなってくらいには」

「雲雀くん美人だから妹さんも可愛いんだろうな」

「誉めてんのかよそれ」

「誉めてるよ」


 ああ、よかった、何も聞こえない。桜井くんと胡桃の声を聞くまいとせずとも聞こえない。ゆるりとした安堵が胸に広がるのを感じながら、つい雲雀くんの肩に頭を載せたい衝動に駆られて、このくらいならいいか、とその衝動に任せて頭を傾ける。コテンと頭を預けた先は少し骨ばっていた。


「……どうした?」


 いつもより雲雀くんの声が近い。あんまり緊張はしなかった。どちらかというと安心した。骨ばった肩からはあまり体温を感じない。どちらかというと直接触れている頭よりも、触れそうで触れない腕同士のほうが熱を感じる。

 視界の中で能勢さんが私達に微笑を向けていた。応援してる、祝福してるなんて言葉のとおりだ。なんで能勢さんは私と雲雀くんの仲を応援してくれるんだろう。別に、能勢さんには利害関係のない話なのに。


「……どうもしない」


 なんでだろうな。でも能勢さんのいうとおり、雲雀くんと付き合うのがベストで、正解なんだろうな。きっとこのままいれば雲雀くんを好きになることができて、きっとそうなれたら幸せで──。

 なんて考えながらもどことなく穏やかな気持ちで目を閉じれば──ぐいっと無理矢理頭を起こされ、慌ててパチッと目を開けた。この手は九十三先輩だ。


「先輩はAAAまでって言ったよなあ、雲雀くん?」

「……俺は悪くなくないですか?」

「剥がせよ。三国ちゃんに迫られても」

「据え膳食わぬはなんとやらと言いますし」

「今のは食ったって自白か?」

「能勢さんじゃあるまいしたった一週間かそこらでそんなわけないでしょ……」


 しかも私が頭を預けたのと反対側の雲雀くんの肩は蛍さんの手に捕まれていた。その手には骨と血管が浮いていて、いかに力が込められているかがよくわかる。ミシリとでも聞こえてきそうだった。