ぼくらは群青を探している

 九十三先輩はこれまで見たことがないくらい疲弊しきった顔で、そのくせ大声を上げ、カバンをリュック代わりに背負いながらよろよろと歩いてくる。更にその後ろには蛍さん達以外の三年生も見えたので、ようやく集会が始まりそうだ。


「もう疲れちゃったよおー」

「……お疲れさまでした」

「本当にねー。もう一生分頭使った。ギュッてして、ギュー」


 九十三先輩がカバンを参道の脇に捨て、そのまま私に向かって手をのばす、それとほぼ同時に雲雀くんと蛍さんが九十三先輩の襟首を掴んで止めた。「ぐえっ」と九十三先輩が苦しそうに呻く。


「俺だって疲れてんだよ。さっさと集会してさっさと帰んぞ」

「でもさー、ハグしたらストレス減るらしいよー? 三国ちゃんもストレスなくなって少しはこの無表情も和らぐんじゃないかなー?」

「アンタに抱きつかれる方がよっぽどストレスでしょ」

「そうなの? 三国ちゃん」

「いや……どうなんでしょう……ね……?」

「ほら違うってー」


 途端、体が力強いなにかに抱きこまれた。……何が起こったのか分からなかった。いつの間にかガッシリと九十三先輩に強く抱きしめられていた。先輩はシャツの襟首を掴まれていたはずではと思ったら確かに蛍さんも雲雀くんもシャツは掴んでいた。ただ掴んでいるのはシャツだけで、まるで脱皮でもしたように九十三先輩はシャツから抜け出していた。

 そして九十三先輩に抱きしめられると骨が折れると笑っていた先輩がいたとおり、九十三先輩の体の力強さは、軽く抱きしめられているだけであまりにも明白だった。私を抱え込む胸の広さも、背中に回る腕の強さも雲雀くんと全然違う。

 ──以上を把握するのに二秒。


「え、三国ちゃんめっちゃいい匂いする」


 そして、その九十三先輩が蛍さんに思いっきり頭を殴られ、雲雀くんに足蹴にされ、そのまま参道の脇に投げ飛ばされ更なる暴行を加えられ、死体のように転がされるまで二秒……。


「おう、庄内達も来やがったな。他に来てないヤツいねえか」


 蛍さんは死体となった九十三先輩の背中をまだ踏みながら境内を見回した。下にいる九十三先輩が「すいません、反省してます、やり過ぎました」と呻いている。


「服部先輩は今日は学校のお呼び出しがあるので来ないそうです。同じ理由で二人ほど」

「……あ、そ」


 能勢さんの報告に蛍さんの目は一瞬だけ鋭く光った。……服部先輩といえば、蛍さんと冷戦状態。しかも服部先輩の風体を知っていると、学校からのお呼び出しがあるからなんて真面目な理由は最早嘘にしか聞こえない。でも蛍さん達が深く聞かないのであれば、それは私が詮索(せんさく)していいものではなかった。


「ところで永人さん、模試どうだったんです?」

「最ッ悪だよ! 六割切ってやがる!」


 口を(ゆが)ませて声を荒げる蛍さんは珍しかった。でもそうか、蛍さんは真面目だから、模試の結果に一喜一憂してるんだな……。ちなみに死体の九十三先輩は「だいじょーぶだいじょーぶ、俺五割だから」と何も大丈夫じゃなさそうなフォローがきた。というか、一年生の私にはその得点率が何を意味するのか分からないけれど、テストで解けた部分が半分かそれ以下だと考えるとその危うさはよくわかる。集会なんてしてる場合じゃない。


「んじゃとっとと話してとっとと帰るぞ。先週、(レイブン・)(クロウ)春日(かすが)からありがたーいご提案をいただいた」