ぼくらは群青を探している

 ミルクバニラの紙パックにストローを挿して、そのまま壁に背を預けて口をつける。雲雀くんはそのままそこに座り込んで口をつけた。

 沈黙が落ちた。家に帰るわけでもない、誰かと合流するわけでもない、次の授業が待っているわけでもない、無期限無制約のふたりきりの時間は、付き合ってから初めてだった。冷たい紙パックを持つ手は、結露に冷やされなければ汗ばんでいただろう。そのくらい、緊張してしまっていた。


「……先輩らに言ったほうがいいかもな」

「……なにを?」


 そのせいで、頭が上手く回らなかった。首を傾げれば「……お試し期間ですって」少し言い辛そうなトーンで返事がきた。

 それなら先輩達も遠慮して、キスをするなだのなんだのは言わないだろう、きっと雲雀くんはそう言いたいのだ。それはそうかもしれない。それは雲雀くんの片思いだと公言するようなものだから、さすがの先輩達も気にかけてくれるだろう。

 ただ付き合っているという状態に違いはないのに「お試し期間」なんて公言するのは、どうにも釈然としない。もちろん、自分の中で明確に雲雀くんへの感情の答えが出たわけではないけれど……。


「……これは私の勝手な感情なんだけど……あんまり雲雀くんとの付き合いを〝お試し〟みたいな言い方はしたくないかな……」

「……なんで?」


 きょとりと、今度は雲雀くんが首を傾げる番だ。でも私の中でもその理由は明確ではない。つい、紙パックを持っていないほうの手でスカートの裾を握りしめてしまう。


「……上手く言えないんだけど、その……なんか、お試し期間なんていうと、好きになれるかどうか試してるみたいっていうか……」

「……実際そうじゃね」

「え、違うよ。え、いや、違わないのかもしれないけど……なんていうか……」


 好きになれるかどうかを試すために付き合ってるわけではなく、私は雲雀くんならきっと好きになると思ったわけで……。


「……なんか、傲慢(ごうまん)じゃないかな、そういうの……」

「……でも俺はあわよくば三国と付き合おうと思ってああいう言い方をしたわけだし」


 ……羞恥心で紙パックを握りつぶさなかった自分を誉めてあげたかった。〝あわよくば〟なんて、私と付き合うことを第一の優先事項にしたかのような言い方はやめてほしい。


「別に、試すんでいいだろ。その間に俺は好きになってもらえば御の字、そうじゃないなら、そうでしたか、じゃあ友達しますかってだけだ」

「……でも、やっぱりなんか……私が優位に立ってるみたいな言い方で、気持ち悪い」

「……優位だろ、三国が」


 立てた膝の上に、腕を投げ出すようにして置きながら、雲雀くんはまるで他人事のように肩を竦めた。


「俺は三国に好きになってもらいたい、三国は俺を好きになる必要はない。サルでも分かるくらい三国が優位だ。片思いで付き合うってそういうもんだろ」


 ……この間まで、私と雲雀くんは対等な友達だったはずなのにな。裏を返せば、片想いは対等さを失くしてしまうものなのかな。


「……でも、雲雀くんと話してて、私のほうが優位だなんて感じたことはなかったよ。現に、私は雲雀くんがそういう感情を持ってるって気付かなかったわけだし」


 雲雀くんのセリフを分析すれば、片想い相手の前では、相手に好かれようとするためになんらか劣位性を感じさせる言動が出てしまうことになる。でも雲雀くんにそれを感じたことはなかった。